表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
若き王子の来襲
77/91

70.迷うな

「相手が悪すぎるな」

 口を開いたのはウルスラだった。双剣の片割れを握っているが、満身創痍だ。膝を地面について、肩で息をしている。アレクとガイルは虫の息だ。ウルスラの仲間たちも倒れている。

 唯一立っているスバルも傷だらけだ。

 対して、エイベルは傷一つ負っていない。ギルバートが生み出したらせん状の影を躱し続けている。ギルバートは弓兵の動きを封じる事にも魔力を割いた。彼の魔力が底を尽きるのは時間の問題だろう。

 ウルスラが背中に結わえていた剣を降ろす。

「スバル、諦めて癒やしの剣を使え」

「……その時が来たら考えてやるぜ」

「今がその時でなければいつ……!?」

 ウルスラは反論しかけて、地面へ倒れ伏す。虚空から出現したロベールに背中を蹴られて、堪えきれなかったのだ。あっけなく倒れる姉を横目に、スバルは毒づいた。

「偉そうにしやがって。しばらく寝てろ」

「あなたもお眠りください。永遠に」

 その声は、穏やかに流れる風のようだった。ロベールだ。優しげな瞳と目があった瞬間に、馬の前足が襲いかかる。スバルは地面を転がるようにして躱したが、激しい痛みを感じていた。傷口に運悪く岩肌が当たったのだ。血が体力と共に流れ出ていく。

「クソが!」

 思うように動かない身体に対する怒りと、焦りを悪態で誤魔化す。スバルの目は死んでいない。消えたり出現したりするのを繰り返すエイベルとロベールを睨み、剣を構えていた。

 しかし、体力の限界は近かった。いつものキレがなく、剣を振るっても、ロベールを捉える事ができない。相手が丸腰でなければ刺し殺されていたかもしれない。

「スバル、殺されてしまったら敵討ちができないだろう」

 ウルスラがかすれた声で呟いた。

 癒やしの剣が音を立てて、スバルの足元に転がった。ウルスラが残された体力と精神力で放り投げたのだ。

「呪われし血族に有効だと聞く。おまえの剣撃がエイベルに届くだろう。無駄死にしたくなければ使え……」

 そう言って、ウルスラは何も話さなくなった。気を失ったのだろう。


 無駄死に。


 それはあってはならない。無念の内に命を落とした仲間たちへの裏切りだ。


 癒やしの剣はスバルの仇の一人が使っていた。手に取るのはためらいがある。躊躇と仲間たちへの想いが天秤にかかる。

「ここは戦場です。迷うなら死になさい」

 ロベールの言葉はスバルの動揺を誘う。生き残るには最善の手を尽くさなければならない。しかし、最善の手を尽くすのも裏切りだと思えてしまう。

 馬の前足が襲いかかる。全体重を乗せて、スバルを踏み殺そうとしている。受け止められるはずはない。避ける体力も残っていない。スバルの脳裏に死がよぎる。

 その時、大気を切り裂くような怒号が響き渡った。


「迷うな!」


 感情がむき出しにされた、熱い言葉だった。ギルバートだ。スバルは咄嗟に癒やしの剣の柄を握り、鞘ごと持ち上げて馬の前足を弾いた。馬は悲鳴をあげて、スバルと離れる方向へ飛び退いた。

「嘘でしょう」

 ロベールは巧みな手綱さばきで馬を落ち着かせながら、両目を丸くして感嘆の声をあげた。

「人間が馬を弾くなんて」

「……癒やしの剣は選ばれた血筋に膨大な力を与えるからね。持ち主を守るために結界を張ると聞いた事がある。初めて見たけど、恐ろしいね」

 エイベルの額に汗が滲んでいる。血の滲んだ右肩を抑えていた。しかし、微笑みを絶やしていない。

「でも、ギルバートも手傷を負うはず。だって僕の兄弟だから。そうだよね?」

 沈黙は肯定を表しているのか。黒い魔導士は姿を現さない。エイベルは笑った。

「僕は安全な方法で君たちを仕留めるとするよ。手始めに、フローラという女を殺しにいこう」

 エイベルは、ロベールが操る馬ごと姿を消した。

「……まったく。ちょこまかとうるさい奴だ」

 スバルの横から、黒い逆五芒星の魔法陣が出現する。その魔法陣の中心からギルバートがゆっくりと現れた。

「スバル、その剣を握るのは最小限にしろ」

 ギルバートは脇腹を抑えていた。いつのまにか斬られていたらしい。相変わらず淡々とした口調だが、微かに焦っているのが窺える。

 スバルは癒やしの剣を地面に置いた。

「……言われなくてもそうするぜ。で、どうするんだ? フローラを殺しに行くと言っていたが」

「どこにいるかは俺もエイベルも分かっている。おまえは先に行け」

「分かった。けどよ、どうやって……!?」

 スバルが尋ね終わる前に、ギルバートは呪文を唱えていたのだろう。スバルの足元の影が形を変えて、人間と同じ大きさの黒い鳥となる。黒い鳥はスバルと癒やしの剣を強制的に浮かばせた。

「行け。報告は後でまとめていい」

「おい、心の準備がああああ!」

 黒い鳥は急加速で飛び立ち、あっという間にスバルと癒やしの剣を連れて行った。

 ギルバートはしゃがみ、呪文を唱える。脇腹の傷の痛みが引いた。

「これでエイベルに集中できる」

 立ち上がり、空を見上げる。その先には、切り立った崖が見えていた。

 戦闘前に、フローラと話をした場所だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ