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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
若き王子の来襲
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挿入話:一筋縄ではいかない

「うん、いい感じだ!」

 エイベルは馬上で満足そうに頷いた。ドラグーン・シティを攻撃したシューターの威力が絶大だったのだ。

「シューターってどんくさそうであんまり好きじゃなかったけど使えるね。ただの石がこんなにも強力な飛び道具になるなんて」

「エイベル様、油断なさらないでください。敵将討伐はまだまだ遠いのです」

 エイベルと同じ馬に乗る青年の騎士がたしなめた。エイベルは唇をとがらせる。

「分かってるよ、ロベール」

 そう言って、若い王子は不満そうに頬を膨らませた。

 実は、エイベルは単独で馬に乗れない。身長が足りないのも原因だが、単純に乗りこなせないのだ。そのため、ロベールの馬に、ロベールの腕に挟まって乗せられていた。

 ロベールはいたって真面目だ。大切な王子を守るために、装備はできるだけ身軽にしている。武器は腰につけた短剣と数本の隠しナイフ。騎士が戦うにはあまりにも便りないものだ。しかし、威風堂々とした姿は威厳があり、他の騎士に引けを取らない。

 翻ってエイベルは年齢相応の幼い面持ちだ。口を開けば不満ばかりであった。

「僕だって大きな馬に一人で乗りたいのに」

「技術を身につければいずれ夢は叶うでしょう」

 エイベルの愚痴をロベールは優しい口調で受け流していた。

 二人が会話をしている間にも、シューターは次の攻撃の準備に掛かっている。鍛えられた男たちが投擲道具を乗せる。岩であったり、大木であったり、様々なものが投げられた。

 ロベールを除いた騎士たちが笑いだす。

「我々の出番は無いかもしれませんな」

 ロベールだけは沈痛な面持ちであった。

「出番はありそうですよ」

 ロベールが呟いた。

 騎士たちはロベールの言葉を理解できず、両目を白黒させた。しかし、すぐに事態の変化を察する。

 騎士たちの影が急激に形を変えて、らせんを描く。無数の黒いらせんは壮年の騎士の一人を捉え、馬ごと捕縛した。

「こ、これは……!?」

 壮年の騎士はもがくが、影をほどく事ができない。両目を血走らせて引きちぎろうにも、影はびくともしない。

 エイベルは全身をワナワナと震わせた。


「出てこい、ギルバート! こんな事するのは君しかいないよね!?」


 甲高い声でわめくが、風が静かに流れるだけだ。

 エイベルの頬は紅潮する。しかし、すぐに青ざめた。

 シューターの巨大な影が猛獣へと形を変えている。いななきをあげ、鈍く輝く牙をむき、シューターを扱う男たちに襲い掛かっていた。

「みんな逃げて! 自分の身を守って!」

 エイベルは必死で呼びかけるが、男たちには届いていない。歯噛みして、くうを睨む。

「やめろ、ギルバート! 言いたい事があるなら出てこい!」

「……分かった」

 エイベルとロベールの傍で、逆五芒星の黒い魔法陣が生まれる。その中心から、漆黒のローブを身に着けた青年がゆっくりと姿を現した。

「久しぶりだな、エイベル。随分と乱暴な事を覚えたものだ」

「僕が乱暴な事をする原因を作ったのは誰かな? 大人しく捕まるなら命は助けるよ」

 青年、ギルバートは低い声で笑う。

「俺は助かっても、部下は助からないだろう。

「スバルの事? あいつは国家を裏切った。すぐに処刑しなくちゃ」

「スバルがなぜ裏切り者になったのか。胸に手を当てて聞いてみろ」

「それは……」

 エイベルは視線を泳がせた。しかし、すぐにギルバートを睨む。

「あいつは、国家のために死ねるなら喜んで受け入れなければならないんだ!」

「……本当におまえの言葉か? まあいい。言いたい事は一つだ」

 ギルバートが右手を軽く上げ、影に囚われた壮年の騎士を指さす。

 エイベルは唾を呑みこんだ。ギルバートの瞳から底知れない闇を窺う。気温が急激に下がったような錯覚を感じた。

 ギルバートは淡々とした口調で語る。

「俺の部下を殺すなら、俺もおまえの部下を殺さなければならない」

「脅しのつもり……?」

 エイベルの問いに、ギルバートは首を横に振った。


「事実を述べただけだ。おまえの判断で多くの部下の命が左右される」


 エイベルの表情は凍り付いた。多くの部下の命を賭ける。それは、若い王子には、あまりにも酷な決断だ。人の心を持ちこめないのが戦だと頭では分かっていても、いざその場に立たされると足踏みしてしまう。ナトュール国が相手の時は良かった。自分の魔力で戦に勝利できたから。

 しかし、今度の相手はそうはいかない。

 魔力は互角か、エイベルの方が勝っている。しかし、ギルバートには底知れない恐ろしさがある。現に壮年の騎士はあっさり囚われた。

 だが、退くと決断するのも酷だ。それは国王に対する裏切りであり、ここまで来てくれた部下に対する侮辱だ。

「迷っているのか」

 ギルバートが、エイベルの心情を代弁した。

 黒い魔導士は溜め息を吐き、壮年の騎士に視線を向けた。

「少しは痛めつけないと分からないようだな」

 やめて!

 エイベルが制止しようとした時に、鋭い刃が風を斬った。

 その刃は壮年の騎士の喉を突き刺した。赤い血が四方八方に散る。壮年の騎士は驚いた顔をしていたが、やがて穏やかな表情になり、もがく手を休め、動かなくなった。

「エイベル様、何を迷うのですか? 私たちはあなたに忠誠を誓い、あなたの武器となり盾となるのを喜びとしています」

 口を開いたのはロベールだった。まっすぐな瞳でエイベルに語り掛ける。

「これが私たちの覚悟です。どのように扱うかはお任せします」

 エイベルは沈黙した。

 ギルバートは冷や汗を垂らした。ロベールの投げた短剣が、壮年の騎士を絶命させた。この時に、殺気は全くなかった。この青年は息をするように自然と同胞を殺害したのだ。人を殺すのに何の感情も抱かない。王国のためなら、人の形をした機械と成り果てるだろう。

「……おまえが、俺の腹心を、手塩に育てた部下たちを……」

 ギルバートの言葉に、ロベールは答えない。

「エイベル様、ご命令を」

 若い王子は頷いた。

「反乱を止めよう! ゲベート王国万歳!」

 朗々とした声に、歓喜が沸く。

 ギルバートは舌打ちした。

「一筋縄ではいかない戦いになりそうだな」

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