68.重さ
「それで? クーガをどうした?」
ウルスラの問いかけに、スバルは憮然となった。
「土に埋めてやった。フィンがうるさかったぜ」
「そうか……」
ウルスラはうつむき加減になった。その瞳から一筋の光が見えた。涙をこぼさなように堪えているのだろう。しかし、悲しみを隠せないでいる。
唇をギュッと噛み、胸の前で何度も十字を切る。その様子を、ウルスラの仲間たちは言葉なく見つめていた。
しばらくすると、ウルスラは深い溜め息を吐く。そして天を仰いだ。天井は暗く、当然のことながら何も語らない。
「スバル、初めておまえを憎いと思った。あれほどの人が死んだのに、ロクに反応を示さないとはな」
呟きは力なく響く。
スバルは感情を乱す事なく答える。
「クーガは仇だったし、国王軍が恐れる大敵だ。人格者かもしれないが、見逃す事はできなかった」
「約束は果たしたか?」
「ギルバート王子に報告する事か? 戦闘以外の報告は謁見行為だ。やるわけねぇだろ」
ウルスラは頷いた。
「そうだな。だが、もうおまえは国王軍から離反しただろ?」
「……まあな。エイベルが、もっといえば国王が俺たちを裏切ったんだ。忠誠を誓う理由がない。だが、勘違いはするな。あんたの味方をするつもりはないぜ」
「分かっている」
ウルスラは一つの長剣を手に取る。柄に透明な宝石がはめこまれている。クーガが使っていた癒しの剣だ。淡い光を放っている。
「これは、おまえが使って欲しい。クーガの重みを背負ってくれ」
「ウルスラさん、あなたが使ってくれ!」
それまで黙っていたアレクが堰を切ったようにまくし立てる。
「クーガ様はきっと、あなたに使って欲しいと望んでいる。騙されていたとはいえ、呪われし血族に忠誠を誓い、罪のない人を殺した人間に癒しの剣を手にしてほしくない!」
「……気持ちは分かる。だが、スバルはずっと仲間のために戦ってきた。理解しがたいかもしれないが、癒しの剣を使いこなせるかもしれない」
ウルスラの口調は落ち着いていた。
「受け取れるか? スバル」
「気持ちわりぃ。なんで仇が愛用していた武器を俺が」
「これで黒剣を受け止めただろ?」
「他に手段が無かったからだ」
ウルスラは声を大にして笑った。
「他に手段がなかったら受け取るのだな。分かった。それまで私が預かろう」
癒しの剣を自身の背中に手際よく結わいつける。
「……やはり、重いな」
ウルスラは寂し気に笑う。クーガの微笑みを幻視しているのだろうか。
アレクも複雑な表情を浮かべていた。彼もクーガを尊敬していた。両の拳を握り、何度もスバルを睨みつける。しかし、ウルスラを気にしてか、恨み言や罵倒をぶつける事はなかった。意を決したように言葉を放つ。
「スバル、僕は君を許さない。だが、今はウルスラさんのために協力しよう。しっかりと休んでエイベルとの戦いに備えてほしい」
「もともとそのつもりだ。とりあえず、こいつを借りるぜ」
スバルはあくびをしながら長剣を手に取った。魔力はないが、名匠の代物だ。
アレクはあきれ顔で溜め息を吐いた。
「緊張感がないな」
「無駄に精神をすり減らすつもりはねぇぜ。さっさと休みたいから案内してくれよ」
アレクが露骨に舌打ちするが、スバルは気に留める様子はなかった。ようやく一休みできる、と思っていた。
しかし、事態はスバルの都合のいいようにはいかない。
轟音が鳴る。衝撃で床が揺れた。何か巨大なものがぶつかったのだろう。
慌しい足音が聞こえてくる。警告を告げる鐘がけたたましく響き渡る。
足音は案の定、スバルたちのいる武器庫の前で止まった。足音の主は血相を変えて、事態を告げる。
「エイベル来襲! 出陣を!」




