65.知られていた
クーガはキョロキョロと辺りを見渡す。
「おーおー盛大に喧嘩したみたいだな。怪我人は出なかったか?」
「スバルのせいでたくさん! でも、スバルのおかげで村は助かったよ!」
フィンが両手をこれでもかと言わんばかりに広げていた。
クーガは豪快に笑った。
「そいつはすごいな! おまえ何者だ?」
スバルは舌打ちした。
「通りすがり以外になんて言えばいい?」
「はっはっは、それもそうだ! 腹減ったし、飯にするか」
イノシシ肉が地面に降ろされると、ドンッと派手な音がした。
フィンが歓声をあげる。
いつの間に集まってきたのか、村人たちは調理に取り掛かっていた。
クーガは、野盗の首謀者をスバルから引き離す。
「みんなで食おうぜ。おっさん共も」
おっさんこと野盗たちは、両目を丸くした。
「俺たちもいいのか?」
「よだれ垂らした人間を前に、自分たちだけ食べようとは思わない。足りなくなったら、また狩りに行く。遠慮するな!」
クーガを神かなんかかだと思ったのか。
野盗たちは一斉に頭を地面につけた。
「ありがたい、せめて狩りを手伝わせてくれ!」
「おいおい、足りないのが前提か」
「女や子供にも食べさせる。狩りを教えてくれ」
「狩りは命がけだし、無限にできるものじゃない。と言っても、食べ物の確保が難しいからなぁ……」
クーガはスバルに視線を寄越す。
「おい、通りすがり。どっかに耕作に向く土地はないか?」
「知らねぇな。そんな都合のいい土地があったら、とっくに人が住んでるんじゃねぇか?」
「……耕作は少しはできるんだ。だが、取り立てがひどすぎて追いつかない」
首謀者がぽろりと口にした。目には涙を浮かべている。
フィンが背中をポンポンと叩く。
「大丈夫、クーガが助けてくれるから」
「そうだな。スバルも助けてくれるだろ」
スバルはそっぽを向いた。
「勝手に決めるな」
「素直になれよ。本当は助けたいだろ? そうじゃなければ、おっさん共を生かしたのが無駄になる。武器を持った集団を相手に素手で立ち向かったし、おまえはただの通りすがりじゃない。何か考えがあって、この村の近くに来たんだろ?」
考えがあって村に来たのは当たっている。
クーガを仕留めるため、とは口が裂けても言えないが。
クーガの勘違いは続く。
「誰かのために旅をして、強くなって、村を救った。いい奴だな、おまえ」
「お兄ちゃんいいやふ!」
フィンが肉を頬ばっている。
スバルは溜め息を吐いた。
「ただの気分転換だったけどな」
「気分転換に人助けか、見上げた根性だ」
言いながら、クーガは肉をすすめてくる。
この無邪気で能天気な男が、国王側には最も危険な人物として周知されている。反乱軍を率いていつか国を転覆させるだろうと。
しかし、スバルには反乱の意思があるのか分からなかった。同じ名前の別人として報告を出すか迷っていた。
肉を口にすると、香ばしくて美味しかった。
クーガがニヤニヤする。
「感情が表に出てるな。うまかっただろ。ちょっと話がある、こっちこい」
スバルは促されるままに、家の裏までついていった。
その時のクーガの表情はよく覚えている。
今までの能天気な笑顔が嘘のように、真剣な眼差しを見せた。視線がまっすぐ過ぎて、目を合わせるのが辛くなるくらいだ。
クーガは癒しの剣に手を当てながら、話を切り出す。
「俺はおまえの正体を知っている。ウルスラさんから聞いていたんだ」
ウルスラという名前を聞いて、心臓が飛び出そうな気分になった。
ウルスラは生き別れの姉だ。
クーガが話を続ける。
「ゲベート王国第四王位継承者ギルバート配下王族直下特殊部隊スバル。つい最近、国王軍の主戦力と認められた男だよな」




