6.屁理屈
ナトュール国。
スバルには聞き覚えのある名前だった。
ゲベート王都より東北に位置する緑豊かな国だ。豊富な資源に恵まれた国で、ソーラー国王が独占的に資源を使うために、深い交流を求めていた。何度も使者を送ったり、自らの息子であるギルバート王子とナトュール国の第一王女メーアとの婚約話を持ち掛けたりしていたらしい。
しかし、絶対的な中立を自負するナトュール国の王の心は動かなかった。豊富な資源を分ける事は構わないが独占的に使わせるわけにはいかないと。
そんな文書が届いたのを、スバルはギルバートから聞かされていた。ギルバートは婚約の破棄も深い交流の辞退も仕方ないと言っていた。
だが、ソーラーは違った。ナトュール国に反乱の汚名を着せて攻め込み、ギルバートの弟であるエイベル王子と共に勝利を収めた。ゲベート王都ではいつものようにパーティーが行われた。
スバルは口を開く。その視線は泳いでいた。
「とんだ災難だな」
「まったくよ! 私達が何をしたのかソーラー国王に問いただしたい」
シュネーは涙目だった。
男が口を挟む。
「やめておいた方がいい。国王と対等に話をできる人なんていないから。あ、でも君は半分以上は人間じゃなくなっていたね。それなら暇つぶしに遊んでもらえるかも」
言いながら、男はクスクス笑った。
スバルは舌打ちする。
「一国の王女に対する態度とは思えねぇな」
「国を持たない人間を王家とは呼ばない。ましてやシュネーは国王の奴隷なんだから大人しく売り飛ばされればいい。シュネーをかくまうのは国家反逆罪だ。渡さないと命はない」
男は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
スバルは溜め息を吐く。
「反逆罪は怖いな。どーすっかな」
「渡す気になったかな?」
男はニヤニヤして近づいてくる。
シュネーは震える手で、スバルの腕を掴んだ。
「お願い! ほんの少しだけ時間を稼いでほしいの。メーア姉さんに会いに行くだけで、他には何もしないから」
「……手を離せよ」
シュネーが訴えてくるのを、スバルは冷たい声で返していた。
男は声をだして笑う。
「残念だったねシュネー。人間は誰しも自分が可愛いものだ」
「……そうよね。無茶なお願いをしてごめんなさい」
シュネーはスバルから手を離し、男へと近づく。小さな肩から落胆しているのが読み取れた。
男は意気揚々とシュネーへと手を伸ばす。
しかし、その手がシュネーに触れる事はなかった。スバルが二人の間に割って入っていた。
「誰も渡すとは言ってねぇよ。腕を掴まれていると邪魔だっただけだ」
男はスバルに突き飛ばされ、驚愕の表情を浮かべていた。
「どうしてその女を守る? 国家反逆罪が怖くないのか!?」
「こえぇよ。けど、二人してデマを流そうとしているかもしれねぇし……」
「君の屁理屈は聞き飽きた。さては反乱軍だな。シュネーを守るのは、旗頭にしてゲベート王都の滅亡をたくらんでいるからだ!」
「滅亡させてどうするんだか……」
スバルがあきれ顔になると、男は耳まで顔を赤くして声を張り上げた。
「黙れ反乱軍! 君のような汚らわしい男にこの国を滅ぼさせはしない。今ここで、処分する!」