63.一瞬の出来事
空気の色が変わった。淡く輝く白い靄が、幾層も流れている。見えないはずの大気の流れが見えるようで、不思議な感覚になる。
クーガの笑顔が輝く。
「よっしゃ、呪われし血族じゃないな」
「呪われし血族ってなんだ?」
「よく分からないが、怖い集団らしい。王位を力づくでもぎとったとか言われている。まあ、今は治療に集中しろ」
クーガが全身に力を込める。その気迫に呼応するように、白い靄の輝きが強くなり、動きが激しくなる。白い靄はクーガとスバルを中心に、渦を巻く。
フィンは、渦の外ですごいすごいと言ってはしゃいでいた。
「いつもより、ずっとすごい!」
そんなにすごいのか?
スバルが尋ねる前に、事態は進む。
白い渦が急速に収束され、癒しの剣へと吸収される。癒しの剣は、まばゆい光を放つ。直視していれば、目が潰れるとさえ思った。
しかし、事態は一瞬で終わる。
スバルの怪我が完治していた。
クーガが口笛を鳴らす。
「すごいな! ここまで治療が早かったのは初めてだ!」
「すごいすごい!」
フィンも興奮していた。頭上で両手を叩いてクルクル回っている。
クーガが前のめりになる。
「おまえ、かなりいい血筋だな」
スバルは眉をひそめて後ずさる。
「さっぱり分かんねぇ」
クーガが両目を丸くしたが、すぐに穏やかな笑顔になる。
「まあいいだろう、いつか分かる。それより飯だ! 腹が減った! イノシシでも狩るか」
「飯だー! イノシシだー!」
フィンも片手を振り上げて気合を入れて、部屋の奥へ走る。料理の準備に行ったのだろう。
クーガは剣を持って、鼻歌まじりに出かけていった。
そんな折に、村人が慌ただしく走ってきた。
「クーガさん、大変だ! クーガさん!?」
「クーガなら出かけたぜ」
スバルが言うと、村人の表情は真っ青になった。
「そんな!? どこに!?」
「イノシシ狩とか言ってたぜ。場所は知らねぇ」
村人はその場にへたりこんだ。
「おしまいだ」
「何言ってんだ?」
「野盗が来たんだ。村の食べ物全部よこせとか無茶を言ってきた。クーガさんならやっつけられると思ったのに」
「野盗か……国王軍に逆らわないなら、退治してもいいぜ」
スバルが提言すると、村人は呆気に取られた。
「あんたが、退治?」
スバルはポキッと指を鳴らした。
「野盗くらいならいい運動だ。信じるかは任せるが」
本来なら、クーガの始末以外に任務はない。任務以外の行動は、反乱兵を取り逃したり、反乱軍に加担しなければ何をしても構わない。それぞれの裁量に任されていた。
「村が救われるなら、なんでもいい!」
村人はわらにもすがる想いだっただろう。
「クーガさんが戻るまでに時間稼ぎができれば……!」
「おいおい、随分と待たせるな。さっさと食料を寄越せ!」
声のする方を見れば、ごつい体つきの男たちがいた。それぞれが獲物を持っている。両目を血走らせ、今にも暴れだしそうだ。
「ぶっ殺すぞてめぇら!」
男たちは雄叫びをあげた。




