60.一つの長剣
スバルたちは、巨大な神殿のような建物に案内された。巨大な岩を削ったような荒々しさと、星明かりに繊細に輝く美しさがあった。中に入れば、白い壁と床が広がる。
アレクが歩きながら口を開く。
「長旅で疲れているだろうが、先に渡したいものがある」
言いながら、扉の前で足を止めた。
厳重に鎖を掛けられた扉だ。アレクが呪文を唱えると、鎖がひとりでにほどけていく。
最後の鎖がほどけて床に落ちたところで、アレクは扉に手を掛ける。
重苦しい音と共に扉が開く。その先には、おびただしい数の武器が収められていた。
聖なる槍から、魂を食らう呪われた剣まで千差万別だ。
「好きなものを使うといい。丸腰は気の毒だからな」
アレクが言うと、ウルスラは頷いた。
「スバルに貸した剣が戻ってこないからな。補充をしよう」
「……悪かったな。すっかり忘れていたぜ」
「珍しく素直だな。感心する」
ウルスラの皮肉に悪態の一つもつきたかった。
しかし、スバルはそんな気分ではなかった。
一つの剣から視線を離せなかった。
一見すると何の変哲もない長剣だ。しかし、その長剣の柄には見覚えがあった。
透明な宝石がはめこまれている。
かつて、自分を最も苦しめた男が使っていたものだ。
スバルの心臓が強く鳴る。痛ましい思い出と共に、男の事が頭を巡っていた。
「かつて反乱軍のリーダーだった奴だな。名前はクーガ。ウルスラ、あんたを反乱に誘ったのもそいつだったな」
「よく知っているな。おまえとも関わりがあったのか」
「王族直下特殊部隊になってから、初めての獲物だったからな。忘れもしねぇ」
スバルは遠いものを見つめる瞳で、長剣を眺めた。
「不思議な奴だったぜ。だが、馬鹿だった」
「クーガ様を馬鹿にするな!」
大柄な男が怒鳴る。ウルスラの仲間だ。
「あの方は慈悲深い方だ。世界を救うはずだった。それを……それを……!」
「優しいのは知ってるぜ。俺に国王側につくのをためらわせた奴だ。俺が殺したが」
大柄な男がスバルの胸ぐらを掴む。本当は首を締めたいのかもしれないが、ウルスラの視線を感じているだろう。全身を震わせ、嗚咽をもらしながら床へと崩れ落ちた。
「おいたわしい、本当に……!」
何度も床を叩いている。ウルスラの仲間たちは言葉なく、涙をこらえていた。




