59.説得という名の無茶ぶり
スバルは、ひとまずはアレクの前に立ちはだかる事にした。
「ギルバート王子が嫌がっている。近づくな」
アレクは眉間にしわを寄せた。
「嫌がる? ここでは、僕と話ができるだけでも名誉だというのに」
「俺は最悪の印象を持っているぜ。他国の王家を呪われし血族とか言いやがって」
アレクは両目を丸くした。
「おまえが言うのか?」
威厳を失わないように落ち着いた口調を心がけているようだが、驚きを隠せないでいた。
ウルスラが笑う。
「その子は何も知らされていない。都市長やそのご子息への礼儀も教わっていない。悪く思わないでほしい」
「分かった、何も言わない。今はエイベル退治が先決だな」
ウルスラとアレクの視線が、ギルバートに注がれる。
視線を注がれた黒い魔導士は、こめかみに手を当てた。
「おまえたちの生死に関わらず、エイベルは来る。ドラグーン・シティには待ち伏せ場所以外の用はない。無茶な戦闘を回避するためには手段を選んでいられないかもな」
おまえたちを殺してもいい。
ギルバートはそう言っている。ガイルが大斧を構え、ウルスラの仲間たちがそれぞれの得物を取り出す。
しかし、フローラは違った。
「弟と戦えなんて言わないでほしいのですね」
フローラが、ギルバートの両肩を掴む。当人はギルバートを安心させるためにそっと触れているつもりだろうが、逃げるのを封じているように見える。
「大丈夫です、説得できるかもしれません」
「誰がどうやって?」
「実際に会わないと分からないでしょう」
ギルバートが呆気にとられる。フローラの回答はあまりにも予想外だった。
ウルスラの表情がひどく明るくなる。
「そうだ、説得だ。エイベル王子とは話し合いの場を設けよう! そのためには、戦闘をやめさせなければならない。私たちも努力するが、家族の言葉が絶大だろうな」
わざと大きな声で言っていると、フローラ以外は思っただろう。
アレクは頷く。
「さすがはウルスラさんだ。機転が利く」
「……俺は戦うつもりはないと……」
「ギルバート、おまえは戦うのではなく、説得に行く。そうだろう? ついでに他の家族の説得をしてくれるだろう?」
「俺に死ねと言うのか」
ギルバートの殺意が膨れ上がる。
アレクを通せんぼしながら、スバルが口を開く。
「ここで喧嘩してもしょうがないぜ!」
「……スバル、おまえはエイベルと戦うと言ったな。仲間の仇を討つと」
ギルバートの言葉に、スバルは心臓が飛び出そうな感触を受けた。
案の定、ウルスラとアレクの目付きが変わる。
そして、二人の言葉が重なる。
「頼りにしている!」
「……」
スバルは言い返す事ができなかった。
結局は俺が無茶ぶりされるのか。
溜め息は止まらなかった。




