挿入話2:エイベルの決意、狂うもの
ゲベート国の王城の周りにはいくつもの塔が建っている。王城の南西には、軍の高官が作戦を練る部屋がある。広いテーブルには、地図が広げられていた。
今は五人の騎士と一人の王子がテーブルを囲んでいる。騎士たちは、王子の指差すままに地図の内容を頭に叩き込んでいた。
王子エイベルは時折、騎士たちの理解の度合いを確認する。
「ドラグーン・シティは切り立った崖の上にある。ここが最終地点だ。分かったかな?」
騎士たちは一同に頷いた。彼らは頭がいいし、エイベルの説明は分かりやすかった。突発的な事故にも対応ができるだろう。
騎士たちの士気は高まっていた。
そんな中で、口を開くものがいた。
「おそらくギルバート王子と戦う事になるでしょう。本当によろしいのですか?」
「ロベール、僕の能力に不安があるの? ギル兄、いやギルバートとドラグーン・シティが連携なんて取れるはずがないし、スバルを封じる作戦も練ったし、大丈夫だよ」
エイベルはムッとした表情になっていた。
ロベールと呼ばれた若い騎士は、首を横に振る。
「能力はエイベル様が圧倒しています。しかし、本気でギルバート王子と戦う事ができますか?」
「ロベール、なんたる事を! エイベル様を疑うのか!?」
他の騎士が激昂したが、ロベールは冷静であった。
「戦とは殺し合い。そこに人としての情けを持ち込む事はできません。しかし、エイベル様は優しすぎますし、ギルバート王子と仲がよすぎます。司令官のためらいは、部下たちにも多大な影響があります。もしも僅かにでもギルバート王子を殺す事にためらいがあるのなら、ディーザ王子に任せる方が現実的でしょう」
「貴様、我々のドラグーン・シティの掃討作戦を邪魔するつもりか!」
「私はより確実に敵を葬る方法を考えているだけです」
騎士同士の視線が険しくなる。
騎士の間に静かな亀裂が走ろうとしていた。
しかし、その様子を見てエイベルが笑う。腹を抱えている。心底おかしいようだ。
「なんで僕がためらうの? 僕もギルバートも、王家の人間だ。ゲベート国の守護が第一なんだ。やり方が違うだけで」
幼い王子の笑顔には、精悍な光が宿っていた。
「どちらのやり方が正しいかは、力で証明される。勝者が世界を動かすんだ。それを認めない愚かな王子だったら、死んで当然だよ。僕が制裁を加えるだけだ」
「……エイベル様、場合によってはギルバート王子の命を奪ってもよろしいのですね」
「もちろん。積極的に殺しにいっていいよ」
エイベルの口調に迷いはなかった。
その様子を見て、騎士たちは感嘆の溜め息を吐いた。
「さすがです」
「我々は、あなたが王位を継承するべきだと考えます」
口々にエイベルを褒める。
ロベールは沈黙していた。
確かにエイベルは優秀で、クロードが心酔したのも頷ける。王位を次ぐべきという目線に狂いはないだろう。
しかし、もっと何か大きなもの――例えば運命――が狂おうとしているのをロベールは寒気と共に感じていた。




