5.驚くべき真実
「つるんでても、差はあるみてぇだな」
スバルはニヤリと口の端を上げた。男の仲間たちがスバルを敵とみなして襲ってくるのを、間髪入れずに次々と切り伏せる。反撃の余地を与えない。その剣裁きは神業であった。
男は腕を組んでうなった。表情には焦りをにじませている。
「君ほどの腕前の男がいるなんて……困ったな。どうしても、そこの女を渡してほしいんだけど」
「取り引きは決裂したんだろ。諦めて帰んな」
「諦めるわけにはいかない……君がほしい情報の一端を与えるから、それで手を打ってほしい」
「与えられる情報があるなら、最初からくれよ!」
スバルが非難するのを、男は苦々しい表情で頷いた。
「君の気持ちは分かるけど、こっちにも事情がある。簡単には口に出せないお方だ。察してほしい」
男はそう言って、都市部の方向に向き直る。視線の先には、城があった。
スバルは額に汗を垂らしながら頷いた。
「なるほどな……そりゃ、しゃべれねぇ」
「分かってくれたかな」
「ああ、分かった。あんたは情報源として使えねぇ。女は渡せない」
男は眉間にしわを寄せた。
「話が違う。僕は精一杯の情報を与えたのに」
「俺は貧民街のボスが誰かを尋ねた。あんたは城の住民であると示唆しただけで、それ以上の事はできねぇと言ったんだ。そんなんじゃ俺の質問に答えた事にはならねぇな」
「屁理屈を! 最初から女を渡すつもりがなかったとしか思えない」
スバルはヒューっと口笛を吹いた。
「ご名答」
「性格がわるいな!」
「女ひとりを追いかけまわす男どもに言われたくねぇな」
二人のやり取りを、少女は呆れながら見ていた。
「どっちもどっち。でも、曲がりなりにも助けてもらえるなら恩に着るわ。貧民街のボスについて知りたいと言っていたよね。ヒントなら渡せる。よく見てて」
少女はそう言って、白いフードを外した。
少女の肩まで伸びた銀髪が満月に照らされる。その頭頂部には二つの異質な物質があった。毛が生えた三角形の物質だ。
「猫の耳……?」
スバルがいぶかしげに尋ねると、少女は凛とした瞳で頷いた。
「これが追われていた理由よ。獣の耳を持った女は珍しいからきっと高く売れる。たぶん貧民街のボスが買う予定だったのか、買い手と売り手を仲介する予定だったのよ。私は買い手を知らないけど、売り手なら知っている。信じてもらえるかは分からないけど……」
冷たい風が吹く。月が雲に隠れ、すっかり闇に包まれた。
少女は震える声で言葉を紡ぐ。
「ソーラー国王。ゲベート王都の城に住む悪名高い男よ。私の身体を造りかえたのもそいつ」
スバルは両目を見開いた。
「まじかよ……」
「信じるかは任せる。でも、私は嘘をつくのが嫌い」
月が現れ、辺りを照らす。少女の瞳はまっすぐにスバルを見つめている。小柄な身体からは信じられないような威圧感があった。気高い者が生まれながらに備えている威厳というべきものだろう。
少女は話を続ける。
「こんな話をしたらあなたも命を狙われると思う。でも、あなたなら大丈夫だと思ったの。名乗り遅れたけど、私はシュネー。今は亡きナトュール国の第二王女よ」