56.ドラグーン・シティへ
「……とんでもない事になったな」
ギルバートが表情を曇らせる。
辺りに助けを求める声がこだまする。何人もが、ひび割れた地面の隙間に落ちていた。ウルスラ達が懸命に引っ張り上げるが、終わりが見えない。
何より、直属の部下が国王への反逆を標榜した。
「……時間の問題とは思っていたが、早かったな」
ギルバートが苦笑する。
その苦笑を見ながら、スバルは舌打ちをした。
「遅すぎるだろ。俺は国王を見捨てる。場合によっちゃ、あんたもタダじゃおかねぇ」
「落ち着け。おまえに俺を倒す力はあるのか?」
ギルバートにたしなめられ、スバルは言葉を詰まらせた。
スバルには優れた剣術がある。しかし、魔導士であるギルバートを相手に通用する可能性は極めて低い。ギルバートがその気になれば、スバルを葬るのは容易いだろう。
ここで、スバルはふと思い至った。
「あんたは俺を殺す気がないのか?」
「王国のために命を懸けた同胞たちが不当な理由で殺されては、憤りを覚えるのは当然だ」
言いながら、ぶつぶつと呪文を唱える。ギルバートの影が形を変える。やがて、黒い軍服が作られた。
「いつまでも包帯姿というわけにはいかないだろう」
言われてスバルは、顔を赤くした。上半身は包帯を巻かれたままだった。
スバルは軍服に腕を通しながら尋ねる。
「……あんたはこれからどうする? 言っておくが、俺はソーラーやエイベルに謝る気はねぇぜ。あんな奴らに従うのはお断りだ」
「相変わらず正直だな。俺にどうしてほしいか聞かせてもらおう」
「仲間の仇を取る。邪魔だけはするな」
「俺が彼らに従うなら、おまえの邪魔をする事になるが?」
ギルバートは低い声で笑った。
スバルは眉をひそめた。
「あんたは何が言いたいんだ?」
「察しろ」
しばらく沈黙が流れる。
辺りには、お互いの無事を喜ぶ歓声と怪我人を運ぶ足音が聞こえていた。
スバルは考えこんだ。ギルバートは、その気になれば葬れるはずの自分に手を下さない。反逆の意思を明確にしたのに関わらずに。憤りを覚えるのは当然だと言っていた。
「……あんたもソーラーに逆らう気か?」
「結果的には反逆になるだろう。エイベルを止めたいだけだが」
ギルバートが呪文を唱えて、地面に右手をつく。ひび割れた地面が時を巻き戻すかのように、ゆっくりとくっつき、元に戻る。何事もなかったかのように草が風になびいた。
「まずはドラグーン・シティに行くか……入れないかもしれないが」
ギルバートが呟く。
ウルスラが両目を輝かせた。
「ちょうど私達も行く所だ。あなたがいると心強い! 大きな支えだ」
「勘違いはするな。おまえたちのために戦うつもりはない。そのうち逃げる」
「遠慮する事はない。最後まで戦えるように、私達がしっかりと支援をしよう」
なぜか村人たちから拍手喝采が沸き起こる。
ギルバートがスバルに耳打ちする。
「ドラグーン・シティに行くにあたってウルスラは好都合だが……頃合いが来れば奴らの支援は必ず断ち切れ。いいな」
「御意」
スバルは即答していた。
ギルバートは黒い巨鳥を召喚し、スバルとウルスラたちを乗せる。ウルスラの仲間である茶髪の娘が、ギルバートに声を掛ける。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はフローラといいます。お役に立てるか分かりませんが、頑張ります」
「……」
ギルバートが黙って頷くのに、スバルは掛ける言葉が見つからなかった。
黒い巨鳥は飛び立つ。村人たちの声援を受けながら。




