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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
幼い王子
59/91

56.ドラグーン・シティへ

「……とんでもない事になったな」

 ギルバートが表情を曇らせる。

 辺りに助けを求める声がこだまする。何人もが、ひび割れた地面の隙間に落ちていた。ウルスラ達が懸命に引っ張り上げるが、終わりが見えない。

 何より、直属の部下が国王への反逆を標榜した。

「……時間の問題とは思っていたが、早かったな」

 ギルバートが苦笑する。

 その苦笑を見ながら、スバルは舌打ちをした。

「遅すぎるだろ。俺は国王を見捨てる。場合によっちゃ、あんたもタダじゃおかねぇ」

「落ち着け。おまえに俺を倒す力はあるのか?」


 ギルバートにたしなめられ、スバルは言葉を詰まらせた。


 スバルには優れた剣術がある。しかし、魔導士であるギルバートを相手に通用する可能性は極めて低い。ギルバートがその気になれば、スバルを葬るのは容易いだろう。

 ここで、スバルはふと思い至った。


「あんたは俺を殺す気がないのか?」

「王国のために命を懸けた同胞たちが不当な理由で殺されては、憤りを覚えるのは当然だ」


 言いながら、ぶつぶつと呪文を唱える。ギルバートの影が形を変える。やがて、黒い軍服が作られた。

「いつまでも包帯姿というわけにはいかないだろう」

 言われてスバルは、顔を赤くした。上半身は包帯を巻かれたままだった。

 スバルは軍服に腕を通しながら尋ねる。

「……あんたはこれからどうする? 言っておくが、俺はソーラーやエイベルに謝る気はねぇぜ。あんな奴らに従うのはお断りだ」

「相変わらず正直だな。俺にどうしてほしいか聞かせてもらおう」

「仲間の仇を取る。邪魔だけはするな」

「俺が彼らに従うなら、おまえの邪魔をする事になるが?」

 ギルバートは低い声で笑った。

 スバルは眉をひそめた。

「あんたは何が言いたいんだ?」

「察しろ」

 しばらく沈黙が流れる。

 辺りには、お互いの無事を喜ぶ歓声と怪我人を運ぶ足音が聞こえていた。

 スバルは考えこんだ。ギルバートは、その気になれば葬れるはずの自分に手を下さない。反逆の意思を明確にしたのに関わらずに。憤りを覚えるのは当然だと言っていた。


「……あんたもソーラーに逆らう気か?」

「結果的には反逆になるだろう。エイベルを止めたいだけだが」


 ギルバートが呪文を唱えて、地面に右手をつく。ひび割れた地面が時を巻き戻すかのように、ゆっくりとくっつき、元に戻る。何事もなかったかのように草が風になびいた。

「まずはドラグーン・シティに行くか……入れないかもしれないが」

 ギルバートが呟く。

 ウルスラが両目を輝かせた。

「ちょうど私達も行く所だ。あなたがいると心強い! 大きな支えだ」

「勘違いはするな。おまえたちのために戦うつもりはない。そのうち逃げる」

「遠慮する事はない。最後まで戦えるように、私達がしっかりと支援をしよう」

 なぜか村人たちから拍手喝采が沸き起こる。

 ギルバートがスバルに耳打ちする。

「ドラグーン・シティに行くにあたってウルスラは好都合だが……頃合いが来れば奴らの支援は必ず断ち切れ。いいな」

「御意」

 スバルは即答していた。

 ギルバートは黒い巨鳥を召喚し、スバルとウルスラたちを乗せる。ウルスラの仲間である茶髪の娘が、ギルバートに声を掛ける。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はフローラといいます。お役に立てるか分かりませんが、頑張ります」

「……」

 ギルバートが黙って頷くのに、スバルは掛ける言葉が見つからなかった。

 

 黒い巨鳥は飛び立つ。村人たちの声援を受けながら。

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