54.反逆
「反乱軍のウルスラでなく、俺に死んでほしいんですか?」
スバルが尋ねると、エイベルは当然だと言わんばかりに頷いた。
「ウルスラはただの雑魚だから、いつでも殺せる。でも、君は国家を危うくする」
「俺が何を?」
「自覚がないんだ。君のせいでどんなに迷惑がかかっているか」
エイベルはわざとらしくため息を吐いた。
「まあ、君に求め過ぎるのは酷だ。さっさと用件を片付けるよ。王位継承者として命じる。すぐに死んで」
「すぐに……?」
スバルは眉をひそめた。剣を持つ手は震え、歯ぎしりが止まらない。
王位継承者の命令に逆らうのは、国家に対する反逆罪とされる。これに逆えば反乱軍と同等とされ、死罪は免れない。家族や友人も厳しい取り調べを受けると言われている。
つまり、スバルは自害か国家による処刑かの選択を迫られたのだ。
ウルスラが声を荒立てる。
「無茶苦茶だ! なぜスバルにそんな命令を!?」
「僕に答える義務はないよ。とにかく、スバルには死んでもらわないと。ゲベート国のためなんだ」
エイベルは舌を出した。
スバルは目をつぶり、ゆっくりと呼吸をした。震える手を抑えるのに必死だ。
歯ぎしりが収まったところで、目を開ける。
落ち着いた口調を意識する。
「……理由は、説明できないんですね?」
「君が死んだ後で聞かせてもいいよ。迷うなら、この村ごと滅ぼす。もともとウルスラという反逆者を迎え入れているんだ。仕方ないね」
エイベルは鼻を鳴らした。
この言葉にはレーベン村の住民も黙っていなかった。
「村を滅ぼすだと!?」
「い、いくら王族でもそれは……」
「横暴だ!」
住民の抗議はけたたましい。
しかし、エイベルは不愉快そうな表情をするだけで、聞き入れようとはしなかった。
太陽の光が一瞬だけ雲に隠れる。その時に、信じられないような事態になる。
大地にヒビが入った。
次の瞬間に、大地が音を立てて割れた。住民の悲鳴が重なる。運悪く割れ目に入ってしまった住民もいる。
ウルスラとその仲間たちが割れ目に手をのばす。
その様子を、幼い王子は冷淡な瞳で見ていた。
「忠告はしたよ。君たちは自分から生き残る道を閉じたんだ。レーベン村に理解がないのが悲しいよ」
口の端を上げている。住民の命を奪う事に躊躇がないようだ。
スバルは剣を握り直した。
「悲しいのは俺の方だぜ。いきなり死ねと言われて、逃げ場が無いなんてな」
「素直に死ねばいいんだ。そうすれば、君は反逆者にならない」
「ああ。死んだ方が楽かもな」
大地の割れ目は増えていく。レーベン村全体が沈むのも、時間の問題だ。
スバルの足元にもヒビが入る。
エイベルが笑う。
「そうだよ! 君が死んだ方が僕も楽だ」
しかし、王子は気づいていない。
スバルの瞳に闘志が煮えたぎっている事に。
スバルが大地を蹴るのと、エイベルの腕に傷が入るのはほぼ同時だった。
「なっ……」
予想もしていなかったのだろう。スバルの速さも、そもそもスバルが斬りつけてくるという可能性も。
エイベルは動揺を隠せないまま、腕を押さえて後ずさりする。
スバルはじりじりと詰め寄り、極めて低い声で言葉をつむぐ。
「さっきから聞いていれば勝手な事ばかりぬかしやがって。てめぇの事情は知らねぇが、こっちはまだ死なねぇぜ」
「ゲ、ゲベート国の安定のためなのに!」
「安定? 笑わせるな。反乱軍ほったらかして安定なんかするわけねぇだろ。すぐにふざけた魔法をやめろ、エイベル王子」
大地の割れる速度が鈍くなる。しかし、エイベルは怯えているものの首を横に振る。
「君の事はお父様に言いつける。ギル兄だってかばえなくなる。君の処刑は確定だ!」
「……マジか。ギルバート王子の弟だから生かしてやってるのに」
エイベルの表情は真っ青になった。
逆に、スバルは低い笑い声を発する。
「何も言わないなら、斬らねぇよ」
「そのへんにしてやれ、スバル。エイベルは踊らされているだけだ」
突然、空から声が聞こえた。振り向けば、黒衣の男が風を操って浮かんでいた。
地割れはすっかり止まった。エイベルが震えだす。
「ギル兄! なんでこんな所にいるんだよ」




