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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
幼い王子
56/91

53、分からない

 薬草汁を飲み終えて、スバルは器を置いた。思わず、安堵の溜め息をこぼす。

「……調子が狂うぜ。双剣の魔女が目の前にいるってのに、何もできねぇ。念のために聞くが、なんで俺を生かしてるんだ?」

 スバルの問いに、ウルスラは微笑んだ。

「愛する弟だから。それ以外の理由があるのか?」

「その弟を縛り上げたのは趣味か?」

「暴れたら困ると思った。おまえは恐ろしい剣士だからな」

 ウルスラの返答に、スバルは苦笑した。

「随分と評価されたもんだぜ」

「双剣の魔女という異名も、随分なものだと思うが?」

 ウルスラは笑った。

 しかし、スバルの目付きは険しいままだ。

「ピッタリじゃねぇか。人殺しの魔女が」

「人殺しはおまえだ!」

 ひょろ長い男がスバルを指さす。ウルスラの仲間の一人だ。頬はこけているが、鋭い剣幕だ。

「ウルスラ様は仕方なく戦っていただけだ。おまえは何も分かっていない!」

「よせ。言っても無駄だ」

「ウルスラ様、しかし……!」

 ひょろ長い男はもの言いたげであったが、ウルスラにたしなめられ、無言になる。時折床を殴っては、嗚咽をもらしていた。

 ウルスラは立ち上がって、剣を振りかぶる。殺気はない。悲しそうな瞳をしている。


「人を縛るのは趣味ではない。ましてや、弟が相手ではな」


 剣が鞘に収まる。スバルを縛っていた縄が切り裂かれていた。


「あんた……馬鹿か?」

「馬鹿と言われても、これが姉の行動というものだ。今の私は隙だらけだ。殺せるものなら殺すがいい」

 スバルは両目を丸くして、両手をまじまじと見つめた。試しに指や手首や腕を動かすが、不自由はない。上半身は丁寧に包帯が巻いてある。本気で手当てしてもらえたのだろう。恐る恐る肩を上げてみる。痛みは走るが、動かせない事はなかった。


「本当に助けてくれたのか……」


 スバルは逡巡した。ウルスラは長い間、仲間の仇として恨んでいた。しかし、命を救われた。

「目的はなんだ?」

 ウルスラが答えるはずはないとスバルは思った。しかし、聞かずにはいられなかった。

 ウルスラは穏やかに笑う。

「おまえを取り戻したい。それだけだ」

「俺を取り戻す……?」

 何を言いたいんだ?

 そう聞こうとした時に、異変が起こる。

 

 柱が突然切り裂かれた。

 

 事態を理解する暇はない。村娘が悲鳴をあげた。丸太小屋が崩れ落ちるのは時間の問題だ。

 天井が急速に近づいてくる。このままでは潰される。スバルも、素手ではどうしようもない。

 ウルスラはスバルに剣を渡す。その剣でウルスラの首を斬ることもできただろう。しかし、身体は違う方に動いていた。

 

 天井を斜めに斬る、斬る、斬る。

 全員が、隙間を使って圧死を免れた。一か所に集まっていたのが幸いだった。丸太小屋付近は危険だと判断して、距離を取る。

「経年劣化ではなさそうじゃのう」

 ガラクタになった丸太小屋を見つめながら、老人が呟いた。

 ウルスラは頷く。

「おそらく、魔力によるものだ。北の森から術者の気配を感じる、いや、村に来た」

「あんた、何を言って……!?」

 スバルは背筋に悪寒を感じた。理由は分からないが、身体が勝手に左へ跳んでいた。

 

 スバルの右、つまり先ほどまでスバルのいた地面が、ぱっくりと削られていた。透明な巨大な刃物が通り過ぎたのだろうか。

 

 考える暇はなかった。

 その後も悪寒は続き、咄嗟に避ける。地面や草が削られ続ける。わけのわからない攻撃は続く。

 ウルスラはせわしなく首を回しては、あっちだ、いやそっちに回ったと言い続ける。術者の場所を特定できないのだろうか。

 しかし、術者は業を煮やしたようだ。


「なんで僕の場所が分かる!? スバルは素直に死んでくれないし!」


 声のする方を見れば、そこには金髪碧眼の少年がいた。腕を組み、頬を膨らませ、不機嫌そうだった。白い軍服を着た少年は、高貴な身分なのだろう。

 スバルの声が裏返る。

「エイベル王子!? 何してんですか!」

「君に死んでほしいんだよ、分かるだろ!」

 エイベルは声を荒げた。

 スバルはエイベルの意図が全くわからなかった。

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