挿入話2:兄弟の会話
亡国の図書館は、戦場となった跡が残されていた。血と死体が放っておかれたまま、図書館全体が異臭を放っているかのようだった。
そこに男が足を踏み入れた。
男の名前はギルバート。全身が黒ずくめの長身で、色白の肌はどこか儚げだ。しかし、その瞳は果てしない闇を思わせる。
ギルバートは呪文を唱える。乾いていたはずの血が鮮やかな色を取り戻し、意思を持ったかのように流れ、床の隙間へと消えていった。死体は徐々に溶けていき、これも床の隙間へと消えていく。
ギルバートは十字を切り、祈りの言葉を口ずさんだ後で舌打ちをする。
「……エイベルの部下は節操がないな。誰も後片付けをしないのか」
破れた羊皮紙を拾い上げる。時折指でたどっては、暗唱している。暗唱されているのはナトュール国の言語であった。
瞳をこらす。欠けている部分を探しているのだ。本という本がぐしゃぐしゃにされている中で探し当てるのは困難を極める。幾枚もの破れた羊皮紙を魔力でくっつけては、しらみ潰しに目的のものを探していた。
根気強く羊皮紙を拾っていくと、見つかった。ナトュール国の王女のネックレスについての記述だ。そこにはネックレスを精製した技術や変遷が書かれていた。ナトュール国では婚約すると決まった相手でなければ渡してはならないとされている。国が誇る職人の魂が込められた傑作だからこそ、大切に扱われている。
読み込むほどに、職人の魂が胸を揺さぶってくるような感覚に襲われた。
ギルバートは羊皮紙の束を手に、溜め息を吐いた。
「……これほどの本を台無しにするとはな。戦は簡単に人を狂わせる」
本の形に戻してやろうと考えて、表紙を探す。
しかし、探す時間は与えられなかった。
「ギル兄、何やってるの!?」
唐突に来訪者が怒鳴った。白い軍服を着た金髪碧眼の少年で、名前はエイベルという。ギルバートの弟だ。エイベルは頬を紅潮させて、堰を切ったようにしゃべりだした。
「ウルスラはどうしたの!? お父様が倒せと言っていたのは伝えたよね。ギル兄は他にもいろいろな仕事を抱えているんだから、こんな所でのんびりしないで! それとも、できない理由があるの?」
「ウルスラは一筋縄ではいかない。対策を練る。おまえには遠回りな作業に見えるだろうが」
ギルバートは平静だ。現在探していたのはネックレスの記述であったが、これから対策を練る。嘘は言っていない。
エイベルは胸をなでおろした。
「そうかぁ、時間が掛かる相手なんだね。一人で大丈夫? フローラを連れているみたいだし、僕がやろうか? ギル兄、フローラがいるといろいろ失敗するから」
「余計なお世話だ」
「うん、そうだよね。ごめん。でも、ギル兄は大変そうだから手伝いたかったんだ。僕がナトュール国を滅ぼした後で強く抗議してきた都市があって、たぶんギル兄が粛清する事になると思うよ」
ギルバートは深い溜め息を吐いた。
「ドラグーン・シティか。ナトュール国と交流があった都市の一つだな」
「やっぱりウルスラは僕がやろうか? ギル兄が大変すぎる。ばれたらお父様が怒るだろうけど、きっとルシ様がごまかしてくれるよ」
「やめておけ。おまえはウルスラと相性が悪い。あの女が能力を発揮したら、何ができるのか知っているだろう」
「知ってるよ。でも、本当にそんな能力あるのかな? 僕にはスバルの方がよほど厄介に見えるけど」
ギルバートは眉をひそめた。
「スバルを厄介者として扱うのか?」
「た、たとえだよ。強くて生意気だから」
「何を隠している?」
「何も隠してないよ! 早くウルスラをやっつけないとギル兄がみんなから疑われて、大変な事になるんだから。気をつけてよ!」
エイベルは声を荒げていた。ギルバートが追及しようとするが、空間転移でどこかへ行ってしまった。




