51.騎士との決着
村人が歓声を上げる。スバルには受け入れがたいが、ウルスラは人気者のようだ。
クロードが声をあげて笑った。
「やっぱりスバルはお姉さんと内通していたんだね! 確かに聞いたよ、君を助けるって」
「知るか! こいつが勝手に言っている事だ。反乱軍のリーダーなんだから、こいつ倒そうぜ」
スバルに指差され、ウルスラは優しい瞳で微笑んだ。
「反抗期か。成長したな」
「てめぇは俺を窮地に立たせたいのか!」
スバルが飢えた獣のように殺意をむき出しにするが、ウルスラは平然と受け流していた。
クロードは口の端を上げて馬を駆けさせる。スバルを葬る絶好の機会が与えられている。ウルスラは不意をついたにも関わらず、クロードに傷ひとつ負わせられなかった。まともにやりあえば勝負は明白だ。加えて、彼の仲間が一人いる。村人の相手をしているが、すぐにかたを付けるだろう。
クロードの槍はスバルの心臓目掛けて突き出される。スバルは身体をひねり、最小限の動きでかわすが、反撃ができない。ウルスラが双剣を振るうが、クロードの槍に弾かれる。武器を扱う技量が違いすぎる。
ウルスラは額に汗を流す。
「思っていた以上に手強いな。私では勝てない」
ウルスラはスバルを見遣る。立っているのがやっとの弟だが、目は死んでいない。
クロードが再び馬を突進させる。
同時に、ウルスラはスバルへと片方の剣を投げつけた。そっと投げてやるつもりだったが、剣は勢いよく回転する。
スバルは何を投げ飛ばされたのか瞬時に理解した。
「殺す気か!」
怒号を飛ばしながら剣の柄を握り、クロードの槍を受け止める。スバルが剣を持った瞬間に、クロードが攻撃してきたのだ。ウルスラの剣を叩き落としていたら、その間に串刺しにされていただろう。
ウルスラは深々と頷いた。
「素晴らしい判断だ」
「ぜってぇ殺してやる! クロード、邪魔するなら容赦しねぇぜ」
クロードは鼻で笑った。
「今の君に何ができる」
再び槍を突き出す。切っ先はスバルの頭を貫く、はずだった。しかし、スバルは薄ら笑いを浮かべている。
その光景に青ざめたのはクロードの方だった。
事態を理解するのに、わずかであるが時間を要した。槍の切っ先が地面へと転がっている。
「そんな……」
クロードは切っ先を失い、銀の棒と化したものを一瞬だが見つめてしまう。その隙は、ウルスラにとって充分すぎるものだった。ウルスラは馬の足を浅く斬る。
馬がバランスを崩した所で、今度はスバルがクロードの腕をつかんで、地面へと叩きつけた。クロードは受け身が取れず、うずくまる。スバルの容赦無い蹴りを腹に受け、そのまま気を失った。
村人を相手にしていた騎士は、大慌てで逃げていく。勝てないと踏んで、報告に帰ったのだろう。
スバルは、クロードの槍を切り裂いた剣を握り直す。暗い声で笑っている。ウルスラの剣を持っているのは癪だが、ウルスラを血祭りにあげられると思うと笑いが止まらない。
「さぁて……」
満身創痍だが、その気迫は見るものを圧倒する。ウルスラは少しずつ後ずさりしていた。
スバルはゆっくりと距離を詰める。血が足りないため、最小限の動きでウルスラを仕留めるつもりだ。
ウルスラが足を止める。覚悟ができたらしい。
スバルは標的を見定めて、剣を構える。一呼吸置いて駆け出した。
しかし、その勢いは思わぬ形で止められる。
透明な硬い壁が突然出現していたのだ。スバルは無防備にぶつかって、反動で地面へと転がった。
起き上がろうとした時に、押さえつけられる。ガタイのいい男と、ひょろ長の男がそれぞれ腹と両足に乗っかっていた。ウルスラの仲間たちだ。
「弟様、申し訳ありません」
腹に乗っている男がスバルの顔に透明な液体を掛ける。
いきなり浴びせられて、スバルはむせる。あらん限りの力で暴れる。しかし、強力な薬を盛られたのだろう。どんどん力が抜けていく。意識がもうろうとしてくる。ついには全身が動かなくなった。
意識が遠のく中で、ウルスラたちの会話が耳に入る。
「よかった。殺さずにすみそうだ」
「しかし、目を覚ました時にどうなるか……弟様は恐ろしい男です。騎士に苦戦した後でなければ、俺たちが瞬殺されていたでしょう」
「分かっている。だが、まだ諦めるつもりはない」
スバルの顔をウルスラが布で拭く。
俺に触るな!
スバルは叫びたかったが、口が動かなかった。
ウルスラの優しい声が耳に入る。
「この子は騙されているだけだ。きっといつか分かってくれる」
騙されている? 俺が? 誰に?
疑問は付きないが、スバルの思考は働かない。間もなく意識を手放した。




