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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
馬上の騎士たち
50/91

49.幸運

 騎士は、馬と共に地面に叩きつけられた。受け身を取って衝撃を和らげていたものの、無傷ではいられない。地面にうずくまっている。

 しかし、彼にも騎士としての誇りがあるのだろう。銀の槍を杖代わりに、おぼつかない足取りで立ち上がる。瞳はぎらつき、闘志は燃えたっている。雄叫びをあげて、スバルへと槍を突き出す。

 だが、相手が悪かった。

 スバルはなけなしの体力で倒せる人物ではない。槍はあっさりかわされる。騎士は頭を殴打されると、地面へと倒れこんだ。


「まずは一人」


 スバルは呟き、銀の槍を拾う。続いて襲いかかる馬上の騎士達へ身構える。一瞬にして距離を詰められ、馬上から槍が突き出される。

 一撃をかわせば、時間差で更なる一撃が入る。一見すると単純な攻撃手段なのだが、二騎の連携が正確に噛み合い、途絶えることなくスバルに襲いかかる。せめて一対一に持ち込まないと、勝機はない。

 スバルの左肩からは血が流れだしており、かわし続けるのも限界がある。体力が持たない。

 だが、かわし続けて分かった事もある。槍の動きは複雑だが、馬の動きは基本的にまっすぐだ。時折方向転換をするが、その時はどうしても速度を落とす。また、首を傾けるという予備動作がある。

 もちろん、馬上の騎士達も分かっているだろう。スバルに向かう時には、常人には視界に捉えられないような速さで突撃を仕掛ける。片方が攻撃を仕掛けている間に、もう片方は方向転換を終わらせているのだ。

 特にクロードの動きは異質だ。馬で自在に跳躍したり距離を縮めたりしてくるため、直線的なはずの動きも読めない。槍の先は目で追えない。他の騎士に比べて、格段に馬と槍に慣れている。

 また、スバルの表情の変化にも気づいていた。もう片方の騎士に声を掛ける。


「気をつけなよ! 先に君を仕留めようとしてる」


 スバルは冷や汗をかいた。目論見が筒抜けであったからだ。

 二対一では勝機はない。村人がシュネー救出に集中しているため、味方は期待できない。相手の数を減らすしかない。クロードから仕留めるのは無謀というものだ。

 しかし、もう片方の騎士も槍の扱いには慣れている。武器は同じでも、まともにやりあっては勝てないだろう。

 スバルは銀の槍を両手で握った。夜が近づき、風が冷たくなる。この冷たい風に賭けるしかない。

 猛攻を時には槍で払う。防戦一方なのはきついが、こらえるしかない。風は気まぐれで、いつまでも同じ方向には吹かない。必ずチャンスは来る。

 クロードの槍をかわした一瞬に、その時はきた。


 風の向きと、スバルの目論見が合致した。


 スバルにとって追い風に、もう片方の騎士にとって向かい風になった。狙いは騎士ではない。馬だ。

 巨大な軍馬がスバル目掛けて突進してくる。鎧を着けた、よく鍛えられた馬は脅威だ。しかし、どうしようもない弱点がある。

 スバルは銀の槍で地面を薙ぐ。追い風に乗り、砂粒が騎士に振りかかる。

「馬鹿め、目眩ましのつもりか!」

 騎士は難なく槍を突き出す。しかし、槍はあらぬ方向を向いていた。馬が悲鳴をあげて、暴れだした。

「おい、どうした!?」

 騎士は馬をなだめるが、馬の制御ができない。馬の目から血が流れていると気づいた頃には、騎士は振り落とされていた。その傍で、馬の目の血がついた石が転がっていた。

 スバルは、銀の槍で地面を薙ぐ時に、石を飛ばしていたのだ。ただ投げるだけだったら、狙いを読まれて防がれていただろう。スバルにとっては、石が尖っていたのも幸運だった。

 地面にふりおとされ、呆然としている騎士を殴り倒す。

「二人目、あがり」

 スバルは呟き、槍を投げる。その先には、シュネーを抱える騎士の腕があった。

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