45.心配
いつの間にか夕暮れになっていた。外から赤い光が差し込み、木の板でできた床や丸太でできた壁、鍋を囲む四人がやんわりと赤く染まる。レーベン村の住民は畑仕事を終えて、家路に辿る頃だ。
老人はケラケラと笑う。
「ちょっと長く話し過ぎたかの。畑仕事をさぼってしまった。もうちょっと話すとな、ディーザ配下の王族直下特殊部隊は一つの部屋に集められて、ディーザ王子からこう言われた。俺達は国家を動かす歯車でなければならないが、その歯車から外れる事を特別に許すとな。王子にも思う所があったのじゃろう」
老人は再び笑った。
シュネーは涙目であった。銀髪のてっぺんにある猫耳が垂れ、どことなく悲しそうだ。
「ギルバート王子はいい人なのに、戦わされているのね」
ギルバートは、恋人の魂が壊される危険にさらされている。一度壊された魂は二度と元に戻る事はない。魔導士ならその恐ろしさは分かるだろう。
心優しい王女には胸の痛む話だったようだ。
しかし、スバルはあぐらをかいて、あくびをする。眠たくなっていた。
「あいつはいい人じゃねぇよ。反乱軍と無理やり戦わされているのは初耳だが」
黒い服を着崩しているのもあって、だらしなく見える。
村娘のリンは呆れた。
「自分の主の話なのに、そんな態度だなんて」
「どうでもいい。どんな話を聞いていようと、俺はあいつに従うだけだ」
スバルはあえてそっけない態度を取る。リンを相手に本音を語る必要はないと思っていた。
しかし、シュネーには見透かされたようだ。
「スバル、あなたは本当は不安だったでしょ? ギルバート王子が何を抱えているのか知る事が。だって、おじいさんがお話をしている間はずっと集中していたもの」
スバルは心臓が飛び出そうになった。なだめるのに時間を要した。
その時間が、シュネーを確信させる。
「隠さなくていいわ。あなたとギルバート王子は仲間だから、心配になるのは当然よ」
「心配してねぇし……」
スバルは呟いた。消え入りそうな声だった。
シュネーは首を傾げた。
その様子がおかしかったのか、老人は笑った。
「男は語らないものじゃ。シュネー王女が知るのはまだ先だろうがな」
シュネーは両目を見開いた。驚きのあまり、猫耳もピンと立つ。
「どうして私の事を知っているの? ここではネーと名乗っていたのに」
「儂は元は王族直下の特殊部隊だったぞ。有名所の王女様ぐらい知っておるわ」
老人は踏ん反りかえった。勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
しかし、その笑みは長くは続かなかった。老人の表情がこわばる。
耳をすませば、獰猛な吠え声が聞こえる。血に飢えた獣が近づいているのだろうか。
「可愛らしい王女様を狙って、狼が近づいているようじゃのう」




