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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
昔話:惨劇の王城
42/91

41.戦闘~騎士王子と黒い魔導士~

 ディーザの行動は早かった。

 矢と短槍の雨が止んだ途端に、背中の大剣を抜き、獣のように突進する。大剣は淡い光をまとい、憐れな娘へ振り下ろされる。

 フローラは両手を前に出し、魔力の壁を張る。しかし、魔力の壁はあっけなく砕けた。大剣がフローラに襲いかかる。

 誰もが息を呑んだ。ディーザの早業は鮮やかだった。一切の無駄なくフローラに斬りかかる。

 しかしその直前に、黒い影が走り、大剣を抱え込んでいた。

 顔も腕も真っ黒い人間だった。ディーザに蹴られても、剣を受け止めていた。

 黒い人間は口の端を上げる。


「あなたの剣は強力だが単純すぎる」


 口調は淡々としている。ギルバートの声だった。自らの身体に魔法を掛けて、強化したのだろう。

 ソーラーが怒鳴る。

「何をしている。早くギルバートを切り捨てろ!」

 しかし事態は膠着したままだ。王剣はギルバートの手を離れる事ができない。

 ディーザが苦虫をかみつぶしたような表情になる。ルシフェルから微笑みが消える。

 対照的に、ギルバートは笑った。

「二人はおまえとは違う。弟の俺を殺すなど簡単にはできないだろう。先ほど俺の魔法をおかしくしたのはルシフェルだな。だが、今そんな事をすれば俺は王剣の露となる」

 先ほどの魔法とは、黒い短槍が弓兵でなく反乱兵や貧しい者たちを狙って降り注いだ事だろう。

 ルシフェルは溜め息を吐く。

「当たらずとも遠からずです。しかし、あなたは私には勝てません。ディーザ、娘を仕留める事に専念しなさい」

 新たな命令を受けて、騎士王子は王剣から手を離した。急に予想外の動きをされ、ギルバートはわずかに戸惑った。


 一瞬の戸惑いが命取りだった。


 ギルバートは王剣ごとディーザに蹴り飛ばされ、壁に打ち付けられる。

 ギルバートの身体は元に戻る。ルシフェルがギルバートの強化魔法を無力化したのだろう。

 王剣は乾いた音を立てて床に転がる。

 間髪入れずに、ディーザはフローラへ殴りかかる。

 フローラはいくつもの魔力の壁を張った。しかし、ディーザの拳は壁を尽く破壊していく。最後の壁を破壊する頃には殴打の威力は激減していたが、茶髪の娘は床に押さえられ、首を掴まれ、骨を折られんばかりに締め付けられた。


 しかし、フローラはすぐに解放される。


 ギルバートが即座に起き上がり、ディーザの頬に強烈な殴打を食らわせていた。予想外だったのだろう。ディ―ザは床を転がった。

 勢いそのままに壁際まで転がり、王剣を手に取って立ち上がる。

 騎士王子の瞳は闘志と殺意が入り混じり、燃えるようにぎらついていた。床を蹴り、一気にフローラへと距離を詰める。

 同時に、ギルバートがフローラの前に立ちはだかり、声をあげる。


「掛かったな!」


 一瞬の事だった。

 王剣から激しい赤い光がほとばしり、ディーザの手を焼いた。

 ギルバートは王剣を抱えている間に、火炎系の魔法による罠を仕掛けおいたのだろう。闇色の魔法を操るばかりがギルバートの特技ではないようだ。

 ディーザは王剣から慌てて手を離し、苦笑いを浮かべた。

「せこいな。だが、悪くない」

「騎士王子が王剣を手放すのはとんだ失策だったな」

 相手をほめるディーザに対して、ギルバートの言葉は容赦なかった。

 ディーザは声を出して笑っていたが、その目には殺意が宿っていた。


「本気で俺を怒らせたな」


 ディーザの標的はフローラからギルバートになっていた。もはや何も対抗手段のない魔導士を睨み、全身に力を込める。騎士王子の身体から気迫の波が広がる。

 彼の足元がへこむ。彼の放つ一撃のささやかな予兆にすぎない。

 ギルバートが口を開く。

「逃げろ、フローラ。本気を出したディーザが相手では瞬殺される」

 フローラは首を横に振る。

「あなたを置いて逃げる事はできません。一緒に助かりましょう」

 そう言って、フローラは何重にも魔力の壁を張った。しかし、魔力の壁は崩れ落ちる。

 ルシフェルが微笑む。

「私の前で、そんなに都合よくいくはずがないでしょう。このままでは二人仲良く神に召されます。ギルバート、娘の事は諦めなさい。生き延びれば、私に復讐する事ができるかもしれませんよ」

 ルシフェルはディーザの気迫すら操り、標的を変えさせる事ができるのだろう。

 ギルバートは額に汗を流す。万策が尽きていた。しかし、ギルバートは言い放つ。


「俺はフローラを守り抜く。できないなら、俺に生き延びる価値はない」


 ルシフェルは溜め息を吐き、首を横に振った。何も言わずに事態の行く末を見守る事にしたようだ。

 ディーザは気迫を極限まで高める。彼の鼓動に応えるように、気迫は波打つ回数を増やしていく。気迫はやがて凝縮する。ギルバートとフローラが葬られるのは必至だった。


 そんな時に、不穏な笑い声が響く。


「随分と盛り上がっているな。私も混ぜてもらおうか」


 そう言いながら笑っていたのは、絶命したはずの反乱兵だった。

 ギルバートが青ざめる。

「レイブン!? こんな時に……」

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