40.惨劇
五年後になる。
なんとソーラーが、反乱軍を招いてパーティーをしようと提案したのだ。
ギルバートは喜んで準備をする。日ごろの根回しが実ったのだと思ったのだ。日取りと場所はソーラーに指定されたが、それ以外はギルバートの勝手が利いた。
多くの人間が招き入れられた。老若男女問わず、貧しい者も呼ばれた。王国に不信を抱く者も、ギルバートを信頼して王城へ訪れた。
豪奢なシャンデリアが照らす大広間に、大勢の人間が集まった。
豪華なドレスを着飾った婦人から、みすぼらしい服装の乞食まで、顔ぶれは様々だ。大広間の中央に食事が並べられている。
反乱兵や貧しい者たちは開会の宣言を待たずに食べ始めていた。貴族は大広間の壁側に集まって何やら話している。
開会の宣言は、国王であるソーラーが行う。ライオンのたてがみを思わす金髪と、野心にあふれた目は人々を威圧する。大柄な体格で、真紅のサーコートが雄々しさを強調している。
ソーラーの朗々とした声が会場に響き渡る。
「諸君、このたびは愚息のためによく集まった。ゲベート国の歴史に残る日となるだろう」
貴族から盛大な拍手が沸く。ゲベート万歳! ソーラー国王万歳!
拍手をしたのは大広間の壁側に固まる貴族だけだった。反乱兵や貧しい者たちなど、王城の外から呼ばれた者達は青ざめていた。
なぜなら、中央を取り囲むように弓兵たちが矢をつがえていたからだ。標的は明らかに、中央で食事をしている者たちだ。弓兵たちが一斉に矢を放てば、会場は血の海になるだろう。
ソーラーは声高らかに笑った。
「儂らが下賤な者たちと食事をすると思ったか。これは愚息が仕組んだ巧妙な罠だ。自らの愚かさを呪いながら死ぬがいい」
ソーラーは右傍らにいるルシフェルに視線を移す。
ルシフェルは頷いて、右手をあげた。ルシフェルが右手を降ろす時に、無数の矢が飛び交うのだろう。
そんな時に、中央に躍り出る王子がいた。ギルバートだった。
「やめろ、何を考えている!?」
日頃の彼からは想像もつかないほどの怒鳴り声だった。血相を変えてソーラーを睨む。
ソーラーは大笑いをした。
「反乱軍を鎮圧する絶交の機会だ。これを逃す手はない」
厳かな口調だった。
ギルバートは激昂する。
「ふざけるな! 彼らにどれほどの葛藤があったと思っている!? 彼らの仲間を殺してきた俺達と食事をするのに、どんな想いをしたのか」
ギルバートは必死で訴える。
しかし、ソーラーはあざ笑う。
「虫けらの心などたかが知れている。ギルバート、おまえも反乱軍を一網打尽にするチャンスにほくそ笑んでいるのだろう。妙な演技をやめたらどうだ?」
「俺とおまえを一緒にするな! ルシフェル、ゲベート国はいつかあなたが担う。正当な判断をしてほしい」
ギルバートは、ソーラーではなく、第一王位継承者のルシフェルに視線を移す。
ルシフェルは微笑んでいた。
「私は現国王の意思に従います。あなたは違うのですか?」
「……同じ穴の貉か」
ギルバートは静かに呟いた。低い声で、人語を介さない言葉を紡いでいる。
天井のシャンデリアが黒く染まり、幾つもの短い槍が生える。槍はいずれも闇色で、大広間の壁側へと向けられている。
ギルバートはゆっくりと口を開く。
「警告する。逆らえば、俺に宣戦布告したものとみなす。反乱軍および罪なき貧しい者たちに、矢を向けるのをやめろ」
王子の黒い瞳は怒りに満ち、全身を殺意で震わせていた。
ルシフェルは穏やかに言う。
「では、宣戦布告をしましょう」
第一王位継承者の右手が降ろされると、弓兵が矢を放つ。同時に、黒い短槍が降り注ぐ。いずれも、大広間の中央へ放たれていた
反乱軍と貧しい者たちは悲鳴をあげ、泣き叫んだ。なんでだ、俺達が何をした、ギルバートは何を考えている!?
ソーラーは腹を抱えて笑った。
「本心が出たな、ギルバート!」
ギルバートは再び低い声で呟く。新たに呪文を唱えているのだろう。しかし、黒い短槍の標的は変わらない。
何人も血を流して倒れた。ギルバートの肩にも、腕にも、矢がかすめる。矢と短槍の雨は止まらない。
「裏切ったなああぁぁ!」
そう言ってギルバートに斬りかかる反乱兵もいたが、胸に矢を受けて絶命した。反乱軍はギルバートを信用する根拠を失っていた。
しかし、場違いな言葉を叫ぶ女性がいる。
「ギルバートが私達を裏切るはずがありません! きっと魔法がおかしくなっているだけです」
茶髪の娘だ。魔力を用いて透明な壁を張り、ごくごく狭い範囲の人々を守っている。
ギルバートは救いを求めるような目で、その娘を見つめた。
「フローラ……俺はどうすれば……」
「あなたは悪くない。もっと胸を張って、卑劣な人々に抗議をしてください!」
フローラと呼ばれた茶髪の娘は、最後までギルバートを信じるつもりのようだ。
そんなフローラが目障りだったのか。
ルシフェルが、ソーラーの左傍らにいるディーザに命令をする。
「王剣を取りなさい。標的はあの娘です」




