3.悪者
「……事情がさっぱり呑み込めねぇ。女一人を相手に、大げさな野郎共だ」
男達がぐるりとスバル達を囲む。その足取りに無駄はなく、鍛えられた面々だ。短剣やこん棒など、全員が何かしらの武器を手にしている。
スバルの正面に立つ男が、長剣を抜きながら口を開く。中肉中背で、一見すると何の特徴もない男だ。しかし、長剣を手に口の端を上げる姿は、人を斬るのにためらいがないのだと窺わせる。
「何も言わずにその女を渡してほしいな」
穏やかな口調だが、眼光は威圧的だ。他の男達も、武器をスバルに向けてくる。殺気を放ちながら、じりじりと距離を詰めてくる。
少女は周囲に目を向けながら怯えている。武器を持った屈強な男達に近づかれれば、当然の反応といえた。
しかし、スバルは鼻で笑っていた。
「人にものを頼む態度がそれか?」
意表を突かれたのだろう。長剣の男をはじめ、男達は両目をしばたたかせた。
「……僕たちが怖くないのか?」
「全然。足の運びや武器の持ち方は鍛えられているとは分かるが、まだまだだ」
スバルの言葉に、男達が顔を見合わせる。困惑しているようだ。
「俺達の威圧が通じないだと?」
「何者なんだ、こいつ」
男達の視線はスバルに集中する。
そんな中で、長剣の男が口を開く。
「これ以上は事態を大きくしたくないんだ。その女をこちらへ。できないなら、力づくで奪う」
「まあ待てよ。誰も渡さないとは言ってねぇぜ」
スバルの言葉を聞いて、少女は両目を見開いた。
「嘘でしょ!? どっちが悪者っぽいか一目瞭然よね」
「見た目で判断する気はねぇよ。あんたが盗人で、こいつらは持ち物を奪い返しにきた可能性だってある」
「私は盗人じゃない! さらわれたのを逃げてきただけ。お願い、助けて!」
少女はスバルの背中に追いすがる。涙声で切実に訴えている。
しかし、スバルは少女に一瞥もしなかった。
「取り引きしようぜ。俺の質問に答えたら、こいつ渡してやるよ」
「ああ、それで穏便にすむなら何でも聞いてくれ」
長剣の男が安堵の笑みを浮かべる。
人でなし! 悪魔の手先! などと少女がののしってくるのをスバルは聞き流していた。
「じゃあ、聞くぜ。このゲベート王都の貧民街のボスが誰か教えろよ」
「貧民街のボス……? 何のために」
先ほどの笑みとは一転して、長剣の男は怪訝な表情になる。