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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
レーベン村
39/91

38.知りたい

 老人の目は輝いた。聞いてもいない事を延々と話し出した。

 要は、ギルバート王子は変わりものだっだらしい。貴族の意見だけでなく、貧民街の声や反乱軍の言葉に耳を傾けていたという。相手の意見を聞こうとして、しばらく帰ってこない事もあったとか。


 何日も帰ってこなかった日には、さらわれたという噂が流れて大騒ぎをした。


 老人はカッカッカツと笑っていた。

「護衛は何をしている!? とソーラー国王はカンカンじゃった。護衛の首が危ないという報を受けて、ギルバート王子は慌てて帰ってきた。王子を守るべき者が、王子に守られるというおかしな事になってのぅ。ディーザ王子と密かに笑っていたものじゃ」

 ディーザはギルバートの兄だ。第二王継承者に位置するが、スバルは顔を合わせた事がない。


 しかし、噂なら聞いた事がある。


 騎士王子と呼ばれ、公明正大を地で行くような人だという。ソーラー国王と第一王位継承者ルシフェルに絶対の忠誠を誓っている。ディーザのおかげでゲベート国は滅びないと、確信する者も多いという。

 老人の話は続く。

「ある日、ソーラー国王がギルバート王子に提案をする。反乱軍を招いてパーティーをしないかと。ギルバート王子は喜んで応じたのだが、これが悲劇の始まりじゃった。ソーラー国王はパーティーの準備を手伝わなかったし、なんといっても……酷い事になってのぅ」

 老人はうつむく。


 スバルはソーラーの性格を思い出していた。


 ソーラーは息子のエイベルに命じて、シュネーの祖国であるナトュール国を滅ぼさせた。理不尽な理由だった。

 しかも、シュネーの頭に魔力で猫耳をくっつけて、売り飛ばそうとしていた。悪事を公然とシュネーに糾弾されても、自分が悪かったとは認めない。それどころか、猫耳については悪い魔法使いが別にいて、一刻も早く見つけなければならないと言ってのけた。


 敵国の王女であるシュネーを処刑しなければならないとも言っていた。


 スバルはシュネーをただの化け猫だと言って庇っていたが、ソーラーはシュネーが本物か確かめるという名目でスバルを尋問に掛けようとしていた。傲慢で猛々しい。しかも、嘘を吐く。

 単純な歓迎を目的としたパーティーを開くとは思えない。

 スバルは呟く。


「罠だったんだな」


 老人は頷いた。

「後で考えれば単純な罠じゃったよ」

 老人は深々と溜め息を吐いた。その顔には落胆が刻まれ、年相応のしわがあるように思えた。

 しばらく沈黙が続いた。スバルにも思うところがあった。

 老人が嘘をついている様子はない。反乱軍もギルバートも、ソーラーに騙されたのだろう。老人の話をより詳しく聞けば、ギルバートの過去を知る手掛かりになるだろう。


 しかし、聞いていいのか? という疑問が生まれる。


 ギルバートは自分の事を話したがらない。個人的な事情にすぎないのか、理由があって隠しているのか判断がつかない。仮に理由があったとして、納得できるものだろうか。

 スバルは、ギルバートに対する忠誠心が揺らぐ事を恐れていた。忠誠心を失うなど、ギルバート配下の王族直下特殊部隊としてあってはならないが、心に嘘はつけない。

 今までどおりに仕える事ができなくなるなら、ギルバートの過去を聞いてはならない。


 しかし、知りたいという気持ちもある。


 スバルにとって、ギルバートはただの目上なだけの存在ではない。仲間の無念を晴らしたいというスバルの気持ちを汲んで、適切な命令を与えてくれる。

 それは、仲間の意思を汲んでくれたのと同義だ。

 仲間の意思を汲んでくれる者は、同胞だ。同胞についてより深く知りたいという想いは消えない。

 スバルが迷っていると、シュネーが口を開く。


「何があったのか教えて。スバルもきっと聞きたがっているし、知るべきだと思うから」


 スバルは両目を丸くした。

「なんで俺が知るべきなんて思うんだ」

「ギルバート王子とスバルは、ただの主従関係じゃない。仲間でしょ? もっと互いの事を理解してもいいと思う。荒野でギルバート王子が言った事を忘れられない」

 荒野ではウルスラと戦ったが、逃がした。彼女は反乱軍の旗頭である。逃がしたのは今後の戦闘に影響がある大失態だと言われた。

 シュネーは話を続ける。

「ギルバート王子は他の仲間を心配していたわ。スバルの怪我も治してくれたし。悪い人じゃない。彼ならメーア姉さんを助けるのにきっと協力してくれる。協力するからには、もっと知りたい」

 シュネーの話は強引であった。

 スバルは呆れた。

「メーア王女を助けるなんて保証はないぜ」

「少しでも可能性があるなら、その可能性を広げたいの。もちろん、スバルも協力してくれると思う」

 シュネーの口調はしっかりしている。その目は輝き、猫耳は甘えるように垂れている。

 スバルはシュネーが憐れに思えて、放っておけない。メーアを助けるつもりはないが、しばらく行動を共にするのは悪くないと思った。

 老人が微笑む。

「では、話すかの。どんな惨劇が起こったのかを」

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