37.疑問
「裏切られた……?」
唐突に出てきた言葉に、スバルは混乱した。リンはギルバートの仲間の娘だと聞いた直後に、リンの口からギルバートに裏切られたと言われた。話をどこから整理すればいいのか分からない。
そもそも、村娘の両親がギルバートの仲間だったというのに疑問がある。
「リンの両親は、どうやってギルバート王子と会ったんだ?」
スバルが尋ねると、老人がクックックと笑った。馬鹿にしているのではなく、心底おかしいのだろう。
「直近の部下なのに、分からないのか」
「……ギルバート王子の過去は聞かされてねぇ」
スバルは正直に口にした。
ギルバートは不思議な王子だ。命令をしても目的は滅多に教えない。
スバルは様々な推測をして、意に添うようにしてきた。それが正解だったのか、見当違いの行動だったのかは、当人の表情からは窺えない。
ギルバートはあまり感情を表に出さない王子だ。
最近はゲベート王都の貧民街の調査を命令された。貧民街のボスを突き止めるのは失敗したし、シュネーという厄介者を連れてきた。成果はない。しかし、怒らない。
ギルバートが何を考えているのか分からない。
老人が遠いものを見る目付きになる。
「人の悪い王子になったのぅ。昔は自分の考えを素直に言っていたというのに。本気で国を良くしようと必死だったのじゃが、熱が冷めたのか」
老人は溜め息を吐いた。
シュネーが口を挟む。
「ギルバート王子は悪い人じゃないと思う。でも、自分には王族の資格はないと言っていたわ」
「……残念じゃ。いい筋だと思っていたのに。あの晩餐のせいじゃの」
「どんな晩餐をしたの?」
シュネーが質問すると、リンと老人が顔を見合わせた。二人とも、悲しそうな表情をしている。
窓からは日の光が差し込む。丸太小屋にいる間に、いくらか時間が経ったようだ。
沈黙は続いたが、やがて老人が口を開く。
「ゲベートの王城でパーティーが開かれた。国王側と反乱軍の懇親会という名目での。取り仕切ったのはギルバート王子だった」
「ギルバート王子が……? あいつ、反乱軍を始末する事しか考えていないはずだぜ」
スバルが疑問を呈する。シュネーの救出を優先して、ウルスラの討伐を後回しにした時には、恐ろしい目付きで睨んできた。ギルバートは反乱軍をねじ伏せる事で頭がいっぱいなのだと思えた。
しかし、老人はゆっくりと首を横に振る。スバルに憐れみの視線を向ける。
「おまえは何も知らないんじゃな。かつてギルバート王子は、反乱軍と良好な関係を築こうとしていた。しかし、気が変わったようじゃの。まあ、あんな惨事があれば仕方ないが」
「……さっぱり分かんねぇ。反乱軍はどうやってギルバート王子と接触を持った? 本当にギルバート王子は反乱軍と仲良くやろうとしたのか? 惨事って何だ? 突っ込み所がありすぎるぜ」
スバルが矢継ぎ早に言葉を紡ぐと、老人は戸惑った。
「なんと、そこから説明が必要なのか。儂が王族直下特殊部隊だった頃には注目の的だったのに。時代は変わったのぅ」
「教えるのが面倒なら言わなくていいぜ。ギルバート王子の過去なんて知らなくても、任務に支障は出ねぇからな」
スバルが突き放すような事を言うと、老人は愉快そうに笑った。
「まあまあそう言うな。話すのは嫌ではない。しばらく付き合ってもらうぞ」




