35.毒見
丸太小屋に連れてこられた。床は木の板で作られていて、真ん中は四角く掘られている。四角の中は灰が敷き詰められている。何かを温めるのに使いそうだ。
老人がスバルの右手から手を放し、口を開く。
「ここが儂の家じゃ。ゆっくりしていくがよい」
老人は笑いながら家の奥に消えた。家の中は程よく温かい。
スバルはどっかりと腰を降ろした。
「よく分からん村だ」
「みんなが元気でいい村ね」
シュネーは静かに座った。木と灰の臭いをかぎながら、深呼吸をしている。ほがらかな表情だ。レーベン村を気に入ったらしい。
スバルは溜め息を吐いた。
「悪気はないんだろうが、ウルスラを庇うなんてな……国王から討伐命令が出るのも時間の問題だぜ」
「でも、スバルはこの村を滅ぼす気はないでしょ。国王軍がきたらよろしくとも言われているし」
シュネーが期待の眼差しを向けてくる。猫耳は垂れていて、甘えているようにも見えた。とても愛らしい。お願いされれば思わず聞いてしまいそうになるほどだ。
しかし、スバルは首を横に振った。
「俺はギルバート王子の配下だぜ。村人の頼み事よりも、国王の命令が優先だ」
「つれない事を言うでない。薬膳汁でも飲んで落ち着きなさい」
老人が口を挟んできた。土鍋を抱えている。土鍋には薬草が大量にしきつめられている。老人は四角く彫られた区画に土鍋を乗せ、火を入れた。
老人は鼻歌を口ずさみながら、木のおたまで鍋の中をかき回す。鍋の中身はみるみるうちに黒紫色に変わり、異臭を放ちだす。生ゴミを投下したような臭いだった。
老人は生ゴミ臭のする汁を木の器に入れると、スバルに差し出す。
「毒見を頼む」
「俺に死ねというのか」
スバルの目が据わる。
老人は歯を見せて笑った。
「安心せい。蘇生できるように努力する」
「努力の方向を間違えるな! まずはてめぇが飲め」
「なんの! 飲ませるというなら手加減はせぬぞ。老いても軍人。若いもんに負けはせぬ!」
老人は立ち上がり、両拳を握った。
スバルは舌打ちした。
「……自分が飲みたくないものを人に飲ませようとするなよ」
「でもスバル、飲んでみて。臭いは酷いけど、美味しい」
器の汁に、シュネーが口つけていた。満足そうに微笑んでいる。
老人は薬草汁を器に入れる。ニッと口の端を上げた。
「女の子が飲んだのに、野郎が飲めない理由はないな。身体にいいから、飲んでみろ」
老人に言われて、スバルは逡巡した。
シュネーが飲んで無事だから、即効性の毒ではないだろう。しかし、遅効性の毒の可能性は捨てきれない。村人はウルスラを庇っている。スバルがウルスラの命を狙っていると知られていたら、危害を加えてくる恐れがある。
しかし、シュネーはそんな可能性があるのを考えていないだろう。
老人から器を受け取ると、スバルへ差し出してきた。




