34.理解できない
日が昇りきらないうちに、レーベン村の朝は始まる。老若男女の村人たちが、時折おしゃべりをしながら畑を耕していた。
話題は尽きない。この間の旅人は面白かった、かわいかったなど、訪れた人間を話題にする事が多い。
誤って反乱兵をかくまった時には、国王軍から村を焼かれて苦労したが、彼らは旅人を迎えるのをやめない。訪れる人がいるのは楽しいだからだ。
そんな彼らに朗報が入る。誰か来たぞ! 女の子と若い男だ!
村の若者は蜘蛛の子を散らすように各々の家へ逃げていった。若者は国王軍に見つかれば捕まる可能性が高い。捕まれば家畜のように扱われるという噂だ。相手が誰でも警戒するのは当然だ。
一方で老人たちは穏やかな表情で訪問者を迎えようとする。訪問者が楽しみなのはもちろんだが、レーベン村には老人しかいないと印象付ける狙いもある。
村の若者を守る意図がある。
ところが、今回は事情が違った。訪れた女の子と男の様子がおかしい。女の子は涙目で、男は怪我をしている。
村人が声を掛ける。
「ネーとスバル、どうした!? 何があった」
ネーとは、シュネーの偽名だ。王女の身分を隠すために使っている。
シュネーはしゃくりあげた。
「争いを止められないのが悔しくて……私のせいでスバルが怪我をしたし……」
シュネーの表情は暗かった。
老人たちはシュネーを囲むように寄り集まる。若い女の子が泣きそうになると、心配になるのだろう。
老人たちはシュネーを励ます。あんたは悪くない、自分を責めるな。
そんな中で、一人だけ周りと雰囲気の違う男がいる。スバルだ。険悪な態度で舌打ちをした。
「ウルスラを殺せば争いは止まるのに。邪魔しやがって」
スバルにとって、ウルスラは真っ先に倒すべき女だ。反乱軍の旗頭で、生かしておくと脅威だ。国王軍の戦士が大量に殺される危険がある。早急に怪我から復帰して、打つ手を考えなければならない。
しかし、レーベン村では同意を得られなかった。
老人たちが口々に反論をする。
「ウルスラちゃんを殺すな!」
「小悪魔的な美女に振り回されるのは男のロマンじゃろ!?」
スバルは困惑した。
「おまえら、なんであの女を庇うんだ」
「ウルスラちゃんはミステリアスな美人じゃ。畑仕事を手伝ってくれた恩もある。儂らはあの子が好きじゃ。反乱軍にいようと国王軍にいようと関係ない!」
老人は拳を振って熱弁した。村人は拍手をして讃えた。ウルスラは人気者のようだ。
スバルは呆れ顔で溜め息を吐いた。
「反乱軍を庇うマネをしたら、そのうち村が滅ぼされるぜ」
「既に滅んだから大丈夫じゃ」
スバルの言葉を、老人は笑って切り返した。健康的な歯を見せて胸を張っている。
老人はスバルの右手を掴む。スバルが痛みのあまり小さな悲鳴をあげるが、お構いなしだ。
「もしも国王軍が攻めてきたら頼むぞ。そのためにしばらく休むが良い。怪我も治さなければな」
老人は強引にスバルを引っ張り、カッカッカッと笑いながら家へと連れていった。
スバルにはこの村の住民が理解できない。しかし、心に誓った事がある。
この村は苦手だ。ここに来るのは今回が最後だ。




