30.認めろ
怪物の頭突きをウルスラ達は飛び去ってかわし、スバルもシュネーを抱えて素早く地面を転がり辛うじて難を逃れていた。幾つもの破片が飛んできて痛い想いをするが、地面が砕かれたのを考えると軽傷のうちだろう。
その後、ウルスラ達は何故かスバルの傍にやってくる。
黒い魔物は銀色に光る牙を剥き出しにして、襲い掛かってくる。ウルスラは青息吐息だが、無駄な動きなくかわす。ウルスラの仲間たちも同様だった。
一方でスバルは普段の身のこなしができない。
右足に怪我をしているし、しびれ薬の効果は切れていない。おまけにシュネーを抱えているから走り去るのは不可能だ。
ギルバートはそんなスバルを見捨てるつもりかもしれない。
だが、簡単に諦めるわけにはいかない。
スバルには死んだ仲間の無念を晴らす目的がある。それは、反乱軍を全滅させるだけではない。
目の前にいる仲間を救えなかった無念など、味わいたくない。生きて仲間を守る事ができなくなった戦士たちの想いも、スバルは背負っている。
だから、生き延びる。救える仲間を死なせはしない。
たとえ王族から反感を買っても、譲れない。ウルスラの罠にはまった自分がギルバートに切り捨てられるのは仕方ない事だが、シュネーは守りたい。今さらになって、シュネーを斬りつけようとした事と、シュネーを気絶させた事を後悔していた。
今、シュネーが逃げられないのはスバルのせいだ。だから、スバルはシュネーを安全な所に逃がそうとする。
それなのに、ウルスラたちは執拗に追いかけてきた。当然のことながら、黒い魔物が狙ってくる。
スバルは吠えた。
「こっち来んな!」
しかし、ウルスラは不適な笑みを浮かべる。
「嫌なら、決闘に負けたと認めろ」
穏やかな口調だ。片膝をつき、か細い息をしているのに、余裕な態度を崩さない。
決闘に負けたと認めるのは、ウルスラを始めとする反乱軍と戦えなくなる事を意味する。スバルが勝てばウルスラが死ぬという条件で決められた事だ。一旦はウルスラを追い詰めたものの、シュネーを守ろうとしたのが仇となり、苦境に立たされている。
ギルバートが召喚した巨大な黒い竜がウルスラに猛攻を仕掛けるたびに、スバルも巻き添えを食らう。気を失っているシュネーは大きな足かせになるが、シュネーを見捨てられない。スバルは詰んだも同然だった。
しかし、スバルの瞳には闘志が燃えている。
しびれ薬の効果も軽くなってきている。普段どおりの身のこなしができるようになるのも時間の問題だ。実力を出せれば黒い竜を回避しつつ、ウルスラを仕留められる。
スバルの胸は高鳴っていた。




