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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
荒野の戦闘
30/91

29.戸惑い

 スバルが動けなくなったのを確認して、ウルスラは片刃の剣を鞘に収めた。


「すまなかったな、スバル」


 ウルスラは申し訳なさそうに言った。

 スバルは戸惑った。敵を相手に何を謝っているのか分からなかった。ろくに思考が働かないのは、しびれ薬のせいだろうか。

 大柄な男が、スバルの両足を押さえたまま口を開く。

「弟様は、俺がつれていきましょうか」

「頼む」

 ウルスラの返事は早かった。

 大柄な男がスバルの両脇を抱える。

 その時だ。

 フローラが警告を発する。


「すぐ逃げてください!」


 黒い疾風は消えた。スバルの身柄は押さえた。ギルバートが何かをする素振りはない。ウルスラ達が警戒する要素などなかった。


 しかし、ウルスラ達はスバルから離れて、辺りを窺う。


 フローラの言葉を信じたのだろう。

 異変はすぐに起きた。風が渦巻き、息をするのが困難になる。踏ん張っていなければ吹き飛ばされそうだ。

 気を失っているシュネーが浮かび上がりそうになっている。小柄で軽い彼女は、放っておけば風にさらわれるだろう。 

 スバルは地面を這う。ろくに動かない身体がもどかしい。ときどき土ぼこりが目に入るし、身体が痛くなる。

 だが、懸命に前へ進んだ。それが功を奏して、シュネーの右腕を掴んだ。彼女が風にさらわれる心配はなくなった。しびれ薬の効果は徐々に薄れているようだ。

 風の行く先を見れば、恐るべき魔物が口を開けていた。幾人も一度に飲み込めそうな巨大な口で、ウルスラ達を、スバル達ごと食らおうとしているのだろうか。

 魔物の体長は大人の数倍もある。その身体は鱗に覆われ、月明かりに黒く光る。竜によく似た怪物だ。闇色の瞳で獲物を見定め、口を閉じる。


 風は止んだ。


 束の間の静寂が訪れる。スバルは凍りつくような寒気を感じた。

 ギルバートが一言、口にする。


「やれ」


 その直後、一瞬にして地面が砕かれた。主の命を受けた黒い魔物が、頭突きをしてきたのだ。ギルバートは黒い疾風でウルスラ達を翻弄している間に、黒い魔物を召喚していたのだろう。

 闇色の瞳の魔導士は、今は様子を見ているだけだ。

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