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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
荒野の戦闘
28/91

27.黒い疾風

 ギルバートは細身の長身で、ゆったりとした黒いローブで身を包んでいる。顔立ちは整っていて、男なのに年頃の乙女よりも美しい。

 しかし、ギルバートは底の知れない王子だ。白い肌は儚げだが、黒い瞳は果てしない闇を感じさせる。彼は己の手札の全てを見せない。自分のできる事を隠しながら、敵を倒せる。直属の部下であるスバルさえ、彼の全貌は分からない。

 ウルスラを転ばせたのにどんな力を使ったのか不明だし、ウルスラがしびれ薬を使ったと断定した理由も謎だ。


 ただ一つ、言える事はある。


 ギルバートは稀代の魔導士である。


 ウルスラの仲間たちは絶望的な雰囲気に包まれている。

「くっ、ギルバート王子……」

「こんな所で……」

 彼らがギルバートを相手にするには、あまりに準備不足だろう。実力の差もある。逃げようとするのは目に見えていた。


 しかし、ウルスラを置いていけないようで。


 男二人がウルスラのもとに駆け寄る。ウルスラも立ち上がるが、胸の痛みが激しいのだろう。その足取りはおぼつかない。

 男二人の手がウルスラへ伸びる。しかし、その手がウルスラに触れる事はなかった。

 人間大の薄い刃が縦断し、彼らに襲い掛かった。闇にまぎれると識別が困難である。黒い疾風とも呼ぶべき存在だ。

 固い地面に、黒い疾風の通った跡が残る。鋭利な刃物で斬られたような裂け目ができていた。生身で食らったら、ひとたまりもないだろう。男二人は咄嗟に飛びのき、黒い疾風をかわしていた。


 しかし、ウルスラに避けきる体力は残されていなかった。


 双剣の魔女は右肩を押さえて倒れこむ。胸の激痛もある。立ち上がるのさえ絶望的だ。

 茶髪の女性が悲鳴をあげる。フローラだ。

「ウルスラさん、しっかり!」

 他の仲間たちが止めるのも聞かずに、松明を捨て、ウルスラに向かって走る。捨てられた松明は、光を失って灰色の煙を出していた。

 ギルバートが虚空で手を振る。再び黒い疾風が生まれる。冷徹な瞳で、ウルスラとフローラを一度に仕留めようとしている。

 そこへ無謀にも割って入る少女がいた。

 シュネーだ。無防備に両手を広げている。


「やめて、この人はスバルのお姉さん! 殺さないで。話せばきっと分かるから!」


 猫耳の少女の懇願に、スバルは怒髪天が突く思いだ。

「馬鹿!」

 せっかく助けた命を無駄に使いやがって!

 そこまでの説教はできなかった。口が回らない。しびれる身体と血だらけの右足に鞭打って、武器を置いてシュネーを抱え、走り去ろうとした。

 しかし、シュネーが抵抗したため組み伏せるのが精一杯だった。二人は黒い疾風の直線状にいる。疾風は無情にも迫る。

 スバルは自らが切り裂かれるのを覚悟した。同時に、シュネーを突き飛ばすつもりでいた。しかし、身体がしびれて思うように動かない。

 そんな中で、無情な疾風に立ち向かう茶髪の女がいる。フローラだ。彼女の両手は白く光り、疾風に向けられている。

「私は誰の死も望みません!」

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