26.狡い
王族直下特殊部隊としては、シュネーを盾にしてウルスラの動きを封じるのが得策だった。どんな犠牲を払っても反乱軍のリーダーを討てればそれでいいはずだった。
しかし、スバルの脳裏にはこの娘の事が走馬灯のように流れていた。
泣き虫で、無鉄砲な猫耳の少女。スバルが狼男にやられそうだった時には、スバルをかばってくれた。大切な婚約の証を貸してくれた。
決して嫌いになれないとは思っていた。しかし、こうしてシュネーをかばうまでは、命を懸けて守るべきだとは考えていないはずだった。猫耳の少女が涙目で顔を赤らめているのを見て、胸の高鳴りを感じる。
スバルは自嘲した。不気味なほどに低い笑い声だった。
シュネーを全力で突き放し、自らの右足を縫いとめる片刃の剣を抜き、ウルスラの追撃をいなす。
ウルスラは距離を置いた。荒い息をしながら、胸を押さえている。
「まだ動けたか」
スバルは答えない。血がしたたり落ちるのも構わず立ち上がった。長剣を杖代わりにして立っているのが精一杯だ。
身体は思うように動かない。しかし、心は荒れ狂っていた。
勝負はこれからだ。先に仕掛けた方が勝つだろう。
ウルスラが呼吸を整える。気のせいか、血を吐く量が減ったかもしれない。
「今度こそ終わりだ」
ウルスラが地を蹴る。片刃の剣を振り下ろしてくる。スバルは長剣を振るって受け止めようとする。しかし、全身に電気が走るようなしびれを感じて、立てなくなり、片膝をつく。
明らかに身体の状態が異常だ。
まずい、やられる。
スバルの脳裏に、そんな言葉がよぎる。
勝負は決した、ウルスラは勝った、その場にいる誰もが思った。
しかし、スバルにも意地がある。背負ってきた仲間たちの無念がある。何もせずに倒れるわけにはいかない。
片刃の剣が迫る。スバルは全力を込めて、その刃を打ち払った。しかし、それが限界だった。反撃ができない。ウルスラは更なる一撃を加える。
だが、不思議なことに。
ウルスラがうつぶせで倒れた。
シュネーを含め、その場にいる者たちは戸惑った。ウルスラが一人でに転んだように見えたからだ。スバルは荒い息をしながら片膝をついている。彼には足払いをする余裕さえない。
ウルスラ自身は、誰が手を出してきたか分かっていた。
「ギルバート王子……」
ウルスラの表情に苦悶が浮かぶ。腕に力を込めて起き上がる。
彼女が睨む先には、闇が広がっている。闇からは、ギルバートの笑い声がする。
「しびれ薬とは狡いな。だが、執念は認める。俺の部下がお世話になった」
淡々とした口調だが、愉快そうに目を細めていた。




