25.信じられない行動
「強いな……」
ウルスラは呟き、荒い息をしながらスバルを見る。スバルの目には殺意がぎらついている。
「約束だ。あんたの仲間全員死ね」
「私はまだ、戦える……」
言いながら、ウルスラは咳き込んだ。胸も、口元も血に濡れて痛々しい。
スバルは溜め息を吐いた。
「強がるな。今すぐ楽にしてやる」
スバルは長剣を振りかぶる。しかし、振り下ろすのはやめた。
シュネーが両手を広げて立ちはだかっていた。月明かりに彼女の涙が光っている。
「やめて! もう決着はついている。殺す必要はない。お姉さんでしょ!?」
スバルは長剣を静かに下ろし、シュネーを睨む。
「どけ」
身が凍るような声と、餓えた獣のように欲と殺意に満ちた眼光に、シュネーは小さな悲鳴をあげた。
しかし、震える足で踏みとどまり、首を横に振る。
「どかない。私がどいたら、スバルはお姉さんを殺してしまう。それはダメ」
「他人のあんたが口出ししていい問題じゃねぇ。ウルスラと一緒に切り刻むぜ」
「ダメ! あなたはゲベート王都の貧民街で、見知らぬ私を助けてくれた。悪ぶっていても、本当は強くて優しい。私はそんなあなたを信じる!」
シュネーはまっすぐにスバルを見つめる。
スバルは再び長剣を振りかぶる。
彼の使命は反乱軍の討伐。そのためならいかなる犠牲も払う。ためらいなど許されない。
だから、全力で斬る。
一撃で、苦しまないように終わらせてやる。
戦闘に赴く王族直下特殊部隊に許される人間らしい心と言えば、相手を葬る時にだけ与える慈悲のみ。
猫耳の少女の気持ちが純粋なものであるほどに、スバルの胸は黒々とした憎悪で満ちていく。並々ならない罪の意識と戦う事になるかもしれない。シュネーにはそれだけの存在感がある。
だが、ようやく反乱軍のリーダーを討てる。
人の心を捨てる。後悔するなら、その後で構わない。仲間の死を悼み、彼らの無念を晴らす事にすべてを捧げてきた。
スバルは小さな溜め息を吐く。恍惚とした表情を浮かべていた。
「これで終わりだ」
長剣が振り下ろされる。
シュネーは目をつぶる。死を覚悟しているだろう。
しかし、凶刃がシュネーを斬る事はなかった。スバルの長剣を、ウルスラの双剣が挟むように受け止めていた。いつの間にかウルスラが立ち上がり、シュネーの後ろから回り込むように双剣を振るったのだ。
ウルスラが口の端を上げる。
「言ったはずだ。私はまだ戦える」
ウルスラはシュネーを突き飛ばし、スバルへとぶつける。スバルはよろめいた。いつもなら難なくかわしていたのに、身体が思うように動かない。
ウルスラが双剣を振りかぶる。シュネーと一緒にスバルを斬るつもりだろう。
この女がシュネーを一撃で葬るとは思えない。
そう悟ったスバルの行動は、自分でも信じられないようなものだった。
シュネーをかばって左肩に傷を負い、シュネーに覆いかぶさるように倒れふした。ウルスラの片刃が右足を刺し貫くが、不思議と痛みは感じなかった。




