23.はじめよう
村からいくらか離れた所に荒野がある。草も木も生えていない。固い大地が広がる。
ウルスラが足を止めて、両手を広げる。深く息を吸い、気持ちよさそうに吐き出した。
「相変わらず、いい空気だ。決戦にふさわしい」
集団も足を止めて頷いた。
フローラ以外が頭上に武器を掲げて、雄叫びをあげる。彼らにとって、王族直下の特殊部隊は数多くの仲間を殺してきた宿敵だ。スバルもその一人である。血が煮えたぎっているだろう。
目の前の敵を殺したくてしょうがない、という意味ではスバルも同じような想いだ。反乱軍はピンからキリまでいるが、ウルスラ達はスバルの仲間を何人も殺してきた。見過ごす事のできない強敵たちである。
スバルは口の端を上げた。
「さっさと始めようぜ。寒くなる」
ウルスラは笑って応じた。
「冷えは美容の大敵だからな。決着は早めにつけよう。そこで、提案がある。私とスバルで一対一で戦わないか?」
この提案に、スバルは眉をひそめた。
ウルスラの仲間たちも非難の声をあげる。
「スバルは俺の手で討ちます!」
「ウルスラ様、どうか落ち着いてください」
殺気立つ仲間たちとは対照的に、ウルスラは穏やかなに口を開く。
「今のおまえ達では、この男の相手は務まらない。無駄に命を落としてほしくはない。それに、一対一の決闘にしておけば万が一に私が負けても再起を計れる」
「そんな都合のいい条件を俺が呑むと思うか?」
スバルは鼻で笑った。彼の標的はウルスラだけではない。反乱軍の掃討こそ、王族直下特殊部隊に与えられた最重要の任務だ。そのためならどんな犠牲を払ってもいいとされている。村に逃げ込んだ反乱兵を、村ごと焼き払う権限さえある。
ゲベート国にとって反乱軍の殲滅はそれほど重要な課題なのだ。
ウルスラは溜め息を吐いて、首を横に振る。しかし、微笑みを浮かべている。交渉を諦めたわけではないようだ。
「おまえにとって、これ以上の好条件はないというのに。考えてみてほしい。いくら強いと言っても、六人を相手にするのは無茶だ。私一人と戦う事で決着をつけられるのなら、それに越したことはないだろう」
スバルはにんまりと口の端を上げた。
「あんたに勝てば他の奴ら全員が死ぬなら考えてもいいぜ」
「分かった。そうしよう。私が負けたらここで自害するように命令する」
ウルスラの返事は早かった。スバルはもちろん、ウルスラの仲間たちも呆気にとられていた。
ウルスラは話を続ける。
「その時はおまえも相応のものを賭けてもらう。私は仲間たちの命を賭ける。おまえ一人の命では足りない」
「……俺が負けたら、仲間に死ねと言うのか」
スバルはシュネーに視線を移す。シュネーは猫耳も含めて、全身を震わせていた。
だが、ウルスラは笑った。
「私はおまえの仲間の命は欲しくない。おまえが二度と戦場に現れない事が望みだ」
「なるほどな……」
スバルは顎に手と当てて考え始めた。
スバルが戦場に出なければ、国王側の部隊にとって損失だ。
しかし、戦争は武器を使う以外に役割はある。ウルスラ達の命を奪えるチャンスだと考えれば安いリスクだ。
「いいぜ」
スバルは口の端を上げた。
ウルスラも頷いた。
「交渉は成立だな。では、早速はじめよう」
松明の灯りは闇にゆらめく。
集団は、二人を囲うように陣取る。全員が足を止めた時に、ウルスラが双剣を抜いて地を蹴った。




