22.どこまでも広がる闇
ウルスラは悲しそうな瞳で微笑んだ。
「そうか。あの子がここにいるのか」
「いる。でも、あなたを殺すと言っていた。だから帰って」
シュネーの声はよく通る。凛とした瞳は月影に輝き、猫耳をあらわにした銀髪が風になびく。小柄で華奢な身体からは信じられないような威光がある。
集団は互いに顔を見合わせた。シュネーの猫耳に驚きを隠せずにいるようだ。
しかし、ウルスラは落ち着いていた。
「話がしたい。あの子の居場所を教えてほしい」
「……本当にお話をするだけ?」
「あの子が何もしないのなら」
シュネーはしばらく黙っていたが、頷いた。ついてきてと言わんばかりにゆっくりと歩き始める。スバルのいる民家に近づいている。居場所を教えるつもりらしい。
窓から外を見ていたスバルは舌打ちをした。ギルバートに小声で話しかける。
「どうするんだ?」
「暴れるなら村の外にしろ」
答えはすぐに返ってきた。
スバルは胸の内が沸き立つのを感じた。ようやく長年の悲願に手が掛かる。
「ウルスラは俺が殺す」
スバルは呟き、静かな足取りで民家を出る。外は思ったよりも冷え込んでいた。
スバルに真っ先に気づいたのはウルスラだった。歓声をあげて、両手を広げる。
「ずっと見ないうちに大きくなったな、スバル」
優しい口調だった。
だが、スバルの表情は険しい。
「おかげさまで、あんたがいない間は楽しい人生を送らせてもらったぜ」
口をついて出た言葉は、皮肉以外のなんでもなかった。
しかし、ウルスラは微笑みを返していた。
「楽しいのは、猫耳の女の子の事か? 二人っきりになりたかったのなら、悪い事をしたな」
「気にしてねぇ。あんたが大人しく命を差し出してくれれば、それでいい」
スバルの殺気に呼応するように、風が強くなった。砂埃が立ち、虫の鳴き声が一段と大きくなる。その場にいる全員の服が、髪が、風になぶられる。
集団が、フローラを除いて武器を構える。
「やはり、分かりあえぬか」
「ウルスラ様、お下がりください」
集団はウルスラを気遣っているのだろう。スバルには不愉快であった。長剣の柄に手を掛ける。
「全員まとめて相手にしてやるぜ」
「おまえの気持ちはよく分かった。しかし、この村で騒いだら後々めんどうだろう。場所を移さないか?」
ウルスラの提案にスバルは苦笑した。
「俺もそう言うつもりだった」
「話は決まりだな」
そう言って、ウルスラは村の外へと足を運ぶ。集団はスバルに警戒しながらついていく。
スバルも歩き出そうとした時に、シュネーが駆け寄ってきた。
「行かないで! 殺しあわないで!」
涙目で訴えてくる。
スバルは笑った。
「心配すんな。一方的に虐殺してくるから」
「絶対に行かせない!」
シュネーがスバルを捕まえようと飛び掛るが、難なくかわす。スバルは松明の集団の後をついていく。
明かりに照らされているのに、その先はどこまでも闇が広がっているように思えた。




