21.遠い記憶
松明の明かりは近づいている。スバルは息をつめて、目をこらした。
六、七人の男女が歩いていた。身長が高かったり、図体が大きかったり、小柄だったりと体格の差はあるが、共通点がある。
全員が緊張した面持ちだ。
特に、先頭を歩く女性の表情は悲壮だった。年の頃は二十代の前半。整った目鼻立ちだが、目元に隈を作っている。美しい顔立ちだが思いつめているのが一目でわかった。
しかし、スバルはその女性に同情をしても警戒を解く事はない。細身で背が高く、長い黒髪を一つにまとめている。腰元には二つの剣を備えている。双剣の魔女ウルスラで間違いないだろう。
ウルスラは口を開く。
「あの子と本当に戦うのか」
彼女の後ろを歩く男が答える。
「抵抗してくれば止むをえません。あなたの弟はおそらくゲベート国の思想に染まっています。場合によっては俺が殺す事になるでしょう」
「ありがとう。でも、何があっても私が方を付けたい。あの子のせいで、おまえ達は随分と苦しんだから」
男はしばし逡巡したが、ゆっくりと頷いた。
「分かりました。決断はお早めに。王族直下特殊部隊といえば、かなりの実力者でしょう。ためらってはいけません」
「分かっている。敵に遅れを取る事はない」
ウルスラは口の端を上げる。思いつめた表情はどこへいったのか。眼光は鋭かった。
ふと、別の女が口を開く。
年の頃は二十代半ば。茶髪を肩より眺めに伸ばした、穏やかな瞳の女だ。
「ウルスラさん、もっと聞き込みをしましょう。弟さんは戦うつもりがないのかもしれません」
「そうかもしれないが……スバルの意思までどうやって調べるつもりだ、フローラ」
「相手の心を調べるのは難しいと思います。でも、私達が最初から拒絶しては分かるものも分からなくなります」
フローラの口調は穏やかだが、しっかりしていた。胸の前で両手を合わせて、お祈りをしている。
「私には十年前から五年前の記憶がわずかしかありません。様々な人と出会って、いろいろな思い出を作ったはずなのに。でも、思い出そうとしなければ永遠にその記憶は失われます。諦めなければいつか取り戻せるはずです。人の縁もそうだと思います。ましてやウルスラさんとスバルさんは家族でしょう?」
「……家族の絆が取り戻せるといいが、まず無理だろう。あの子はギルバート王子に忠誠を誓っていると聞いている。ギルバート王子を倒して洗脳が解けるかどうかだが……」
「ギルバート……う、頭が」
フローラは頭を押さえてしゃがみこんだ。ひどい頭痛がしているらしい。
ウルスラを初め、松明を掲げた男女が駆け寄る。
フローラはすぐに立ち上がった。
「心配かけてすみません。もう大丈夫です」
「すまなかった。あの男の名前は禁句だったな」
ウルスラが深く頭を下げる。
フローラは笑顔で首を横に振った。
「とても大切な記憶が眠っている気がします。その人を思い出せれば、失った記憶が蘇る気がします。私が死なない程度に聞かせてください」
会話を聞きながら、スバルはギルバートに目配せをした。
ウルスラを倒すなら今だと思うぜ、と。
しかしギルバートは頷かなかった。窓の外を指さす。
見れば、シュネーがウルスラ達の傍にいた。
いつの間に!?
スバルは怒鳴りそうになったが、こらえる。気配を殺しているのが無駄になる。しばらく様子を窺う。
ウルスラ達は呆けていた。その隙にシュネーが口を開く。
「帰って。スバルはあなた達と仲良くする気がない」




