19.クソ
レーベン村に着く頃には夕方になった。赤い太陽が辺りを照らす。村人は畑仕事を終えて、帰り支度をしていた。
しかしスバルの姿を確認すると、高齢者を中心に人だかりができた。
「おお、久しぶりじゃのう」
「元気にしておったか?」
一度しか来ていないのに、よく覚えている。スバルの顔に特徴があるのでなく、村人の物覚えがよいのだろう。
そんな物覚えのいい村人にさっそく聞き込みを開始する。
「ちょっといいか。ここに、見知らぬ人間が出入りする事はねぇか?」
「まあまあ木の実でも食べていきなさい」
「いらねぇよ。聞きたい事があるだけだ」
「おーい婆さん、パンの余りはあるかいな」
会話は成立していなかった。スバルはこめかみを押さえながら、顔をひきつらせる。
「人の話を聞け、クソジジイ」
「なんじゃ汚い言葉じゃのう。そんなんだから女の子にもてず、戦争をしたがる。いいか? 年上の人間には敬意を払い、丁重に扱うのが若者の義務じゃ。この義務を理解しておらぬと将来ロクな大人にはなれぬ」
悪口だけはしっかり聞かれ、挙句の果てに説教される。スバルのやる気は急激に下降していた。
しかし、救いはあった。
老人がシュネーに視線を移す。
「かわいい女の子がおるのぅ。誰じゃ?」
「ネーと呼んで」
シュネーは、命を狙われやすい本名を隠して偽名を使う。老人はさも納得したかのように頷きながら、ギルバートを見る。
「お主の連れか」
「いや、そっちの男の連れだ」
ギルバートはスバルを指さす。意地悪な笑みを浮かべていた。
老人は両目を見開き、悲鳴をあげた。
「なんと、こんなに可愛い彼女がいたのか!」
「一度は婚約したらしい。その男が断ったが」
「詳しく聞かせてくれ」
老人はギルバートと会話を始める。しばらくすると、腕を組んで難しい顔をした。
「そういえば、そこの男と似た目つきの女の子が出入りするようになってのぅ。スバルとギルバートについて知りたいと言っておった。儂は推理したぞ。そこの男こそ、スバルじゃ!」
スバルはがっくしと肩を落とした。
一度目の訪問時に名乗ったのだが、忘れられていたらしい。知っている顔だと分かっていても名前は思い出せないという事だろうか。
スバルは低い声で口を開く。
「その女……長い黒髪を生やした、ウルスラとかいう名前じゃねぇだろうな」
「なぜ分かった!? お主、さては人の心を読む能力があるな」
老人は得意げに言い放つが、スバルは聞き流していた。
「あいつも俺を探しているのか……」
シュネーは眉をひそめた。
「スバルも探している女だったのか?」
「ああ。絶対に逃がしたくない女だぜ」
スバルは両目を殺意にぎらつかせていた。
「反乱軍のリーダー格で、俺の姉を名乗るクソ女だ」




