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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
ゲベート王都の貧民街
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1.出会いはうまくいかないものだ

 堅牢な防壁に囲われたゲベート王都の周辺には貧民街が広がる。美しい城を擁する華やかな都市部とは裏腹に陰惨な場所だ。腐った果物を奪いあう人々や、木の枝にかじりつく痩せ細った犬が、当たり前のように存在している。盗みや暴行など日常茶飯事であり、人さらいや殺人に至る日もある。多くの人々が身を震わせて暮らしていた。

 そんな貧民街を堂々と歩く男がいる。癖毛のある黒髪に、着崩した黒い服。細身で背が高い。幼さの残した顔立ちだが、その眼光は鋭く、人を寄せ付けない雰囲気を出していた。名前をスバルという。

 スバルは深呼吸をした。貧民街の腐敗臭を感じながら、自嘲気味に笑った。


「懐かしいな」


 スバルは八年前の自分を思い出していた。その時の彼は、十歳に届くかどうかの少年であった。家も身寄りもなく、冷たい風をみすぼらしい服で耐えていた。

 貧民街での暮らしは楽ではない。特に、女や子供が生きていくには過酷な環境だ。自分より明らかに腕力のある男達を相手に食べ物を奪い取らないといけない。奪い取るためには手段を選んでいられなかった。食っていくために、屈辱的な想いをした時もある。力のない者が顔を上げて暮らす事は許されなかった。


 その風習は今も変わっていないのか。


 スバルの前には、人相の悪い男達が五人ほど集まってきていた。

「おい、どこのもんだ」

「俺らを差し置いて、道の真ん中を歩くんじゃねぇよ」

 男達が睨んでくるのをスバルはうんざりした表情で見ていた。

「別に……名乗るほどのもんじゃねぇ」

 スバルが答えると、男達は眉をひそめた。

「おいおい、なんて口の利き方だ」

「親の顔が見てみたいな」


 あんたらも似たようなもんだろ。


 スバルはのどから出かかった言葉を飲み込んだ。めんどくさい応酬になるのが分かっていたからだ。しかし、溜め息はこらえられず。男達は両目を吊り上げた。

「てめぇ、なめた態度を!」

「しつけが必要だな。顔がぼこぼこになるまで殴っちまえ!」

 最も腕の太い男が殴りかかってくる。いろいろな人を殴り慣れているのか、その動きに無駄がない。凶悪なこぶしがスバルに迫る。その場にいる誰もが、スバルが地面に転がるのを予想していた。


 しかし、倒れたのは腕の太い男の方だった。


「ああ……ぐ……」

 腕の太い男は、うめき、もがく。やがて、泡を吹いて気絶した。

 残った男達は何が起こったのか分からず、目を白黒させた。スバルとしては、襲い掛かってきた相手の脇腹を殴っただけで、特別な事はしていない。しかし、目にも留まらない早業であったため、腕の太い男がひとりでに倒れたように見えていた。

 スバルが一歩、男達に近寄る。口元には笑みを浮かべているが、眼光は鋭い。

 男達は震える足で、スバルから距離を取る。一人が悲鳴をあげて走り出すと、他の男達も一斉に走り出した。

「化け物だあああぁぁぁ!」

「おい、待て! 聞きたい事があるんだ」

 スバルの言葉を男達は聞いていない。見事なまでの逃げ足で、男達は姿をくらませていた。

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