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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
遠い記憶・双剣の魔女
19/91

18.切なる願い

 出発は早かった。

 ギルバートが軍服から黒いローブ姿に着替えて、スバルに簡単な治療を施して長剣を持たせた途端に、王城を出る事になった。

「相変わらず行動が早いぜ」

 スバルは溜め息を吐きながら歩く。

 シュネーもついてきた。表情が暗い。

「私一人ではメーア姉さんを助けられない。王城に残っても意味がない」

「心配すんな。メーア王女はしばらく殺されねぇと思うから。チャンスはいつか転がってくるだろ」

 スバルは言いながら、シュネーから視線を外していた。ソーラーを出し抜くチャンスが来るとは思っていない。自分の言葉が気休め程度の意味しかないのを知っていた。

 しかし、シュネーはしっかりと頷いた。


「ありがとう。チャンスを活かせるように頑張る」


 猫耳の少女は瞳を輝かせた。彼女の足取りは軽く、どんな苦難も乗り越えられそうだ。

 大気は冷たいが、スバルは胸が熱くなるのを感じた。絶望的な状況でも前を向けるシュネーは、うらやましくて、ねたましい。

 この娘は奇跡を起こすかもしれない。メーアの救出だけでなく、彼女の祖国であるナトュール国の復興も考えるかもしれない。

 しかし、それはゲベート国の存在を危うくする恐れがある。スバルの手で彼女を斬る可能性もある。

「忠告はしておくぜ。あまり目立たないようにしろよ」

 スバルの言葉を重く受け取ったのか、シュネーは何度も頷いた。

「変な行動をすれば、助けてくれたあなた達に迷惑が掛かる」

 シュネーの言葉はスバルの胸に突き刺さった。


 俺はおまえを殺すかもしれないのにな。


 だが、本当に戦うまではシュネーを嫌いにはなれないだろう。スバルは神に祈る柄ではないが、幸運の女神が微笑んでほしいと切に願った。


 

 目的地であるレーベン村は、ゲベート王都からずっと南に位置する。日が昇ると共に畑仕事をして、日が沈むと共に眠りにつく。あまり特徴のない小さい村だ。

 唯一の特徴といえば、旅人をもてなす風習がある事くらいだ。温厚な住民は分け隔てなく訪れた人を迎え入れる。

 その温厚さゆえに、多くのトラブルに巻き込まれてきた。盗賊にだまされて食べ物を奪われたり、誤って反乱兵をかくまったりした。しかし、レーベン村の住民は旅人を快く迎え入れる。楽しい話を聞かせてもらえれば儲け物だという考えであった。

 スバルがこの村を訪れるのは二度目だ。

 初めて訪れた時には戦場から帰る途中で、傷だらけだった。村人は手厚く保護してくれたが、若いのに無駄に戦うのはやめなさいと、寄ってたかって言ってきた。

 二度と行かないと誓ったほどだ。


「よりによって何で俺を連れていくんだ、ギルバート王子。村人がうざい事はとっくの昔に伝えたよな」


 道中、スバルの愚痴は止まらなかった。草原の風は気持ちいいが、レーベン村に近づくにつれ、気分は下降していく。

 前を歩くギルバートは、振り向かずに答える。

「反乱兵の情報を集めるなら、村人に顔が割れている方が都合がいい。若いのもある。向こうからしゃべるだろう」

 スバルはげんなりしていた。村人の話はとにかく長いし、同じ話を何度も聞かそうとする。相手が理解していない事も構わずに、延々と無駄話をするのだ。道を尋ねたくても、すぐに自慢話にすりかわる。会話が成立しないのだ。


 一方で、シュネーは別の事を気にしていた。


「私はギルバート王子自らが足を運ぶのに疑問を感じる。どうして部下に任せないの?」

「……おまえはゲベートの王城で何を見ていた?」

 質問されて、シュネーは戸惑った。ギルバートの意図がつかめない。

 スバルが助け舟を出す。

「貴族の嫌な雰囲気が分からなかったのか、と言っているんだぜ」

「王城から逃げるために出向いているの!?」

 シュネーの声は裏返った。心なしか猫耳がピンと張る。ギルバートが睨んでくるが、憐れみの視線を返す。

「あんな所、長くいたくない気持ちは分かる。でも、貴族の雰囲気を変えるのは王子の仕事でしょ」

「ソーラー国王を相手にできると思うか? ギルバート王子は意外と臆病なんだぜ」

 スバルは言いながら、ギルバートを見る。闇色の瞳はぎらついてた。

「不敬罪を適用するぞ」

「わりーわりーちょっと口が滑った」

 スバルは笑うが、ギルバートは機嫌を損ねたらしい。

 その後、レーベン村に着くまで一切口を利かなかった。

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