17.伝言
「何があったのか簡潔に報告しろ」
ギルバートに言われ、スバルは正直に報告した。
ゲベート王都の貧民街でたまたま出会った女の子がシュネーであったこと、シュネーは狼男に追われていたこと、貧民街のボスは王城に関係のあるものの可能性が高い事、そして……。
「狼男を倒す時に、シュネーのペンダントを壊しちまったんだ。直せるか?」
「見せてみろ」
ギルバートに言われて、シュネーは壊れたペンダントを見せる。ちぎれた先はボロボロで、狼男の乾いた血がついていて、ひどり有様だ。
だが、ギルバートは笑みを浮かべた。
「なるほど、逸品だ。ナトュール王家に伝わるものだな。並の細工師では手も足も出ないだろう」
「……直せそう?」
シュネーが不安げに尋ねると、ギルバートは頷いた。
「元のデザインが分からないから時間がほしい。汚れは取り除いておこう」
そう言って、ギルバートはペンダントに手をかざす。乾いていたはずの血が鮮やかな赤色になり、ギルバートの手のひらに吸収された。さびも取り除かれたのか、ペンダントは銀色に輝いていた。
シュネーは目を疑った。
「何が起きたの!?」
「大した事はしていない。改めて見ると、見事な首飾りだな」
ギルバートが目を細める。
シュネーはペンダントをそっと胸に寄せた。
「ありがとう。大切なものよ。ナトュール王家の家宝で、婚約者以外に渡してはいけないと言われている」
言いながら、シュネーはスバルに視線を送る。両頬がほんのり赤くなっている。
だが、スバルは言い切る。
「おかしいだろ。武器に使っただけで、婚約成立なんて」
ギルバートが眉をひそめた。
「婚約の証を武器に……? 不敬極まりないな」
「仕方ねぇだろ。知らなかったんだ」
「知らず知らずに女心をもてあそんだのか」
ギルバートは溜め息を吐く。しかし、その目元は笑っていた。
一方で、シュネーは涙を浮かべていた。
「私は……本気だった。でも、知らないと言われても仕方ない」
スバルは言葉が見つからず、焦った。何も言わなければシュネーは泣くだろう。しかし、下手な励ましや同情は逆効果だ。
狼狽していると、エイベルがやってくる。
「何の話をしているの? 僕も混ぜてよ」
「おまえには早すぎる話題だ」
ギルバートの返事はそっけない。エイベルは頬を膨らませた。
「いいよ、わかったよ。ギル兄は本当にそっちの話題が好きだよね! 僕だって暇じゃないんだ。さっさと用件を伝えるよ」
「用件?」
ギルバートは眉をひそめる。エイベルはニッと口の端を上げた。
「お父様からギル兄へ伝言。レーベン村に集まる反乱因子を潰してこいだって」
「……なぜ、おまえを通す」
「確実に命令を伝えるためだよ。お父様はナトュール国の陥落もギル兄にやらせるつもりだったんだ。でもギル兄は、急用を思い出したとか、反乱兵の見回りに行かないととか言って、何かにつけて逃げたよね。おかげで僕がやるハメになったんだ。まあ、僕の実力が評価されたからいいけど」
ギルバートは顔を引きつらせた。額に汗をにじませている。
彼がここまで感情をあらわにするのは珍しいな、とスバルは思った。




