15.思わぬ運
だが、運はそう簡単にはやってこない。
複数の男女が怪訝な表情で口を開く。
「余分な耳があるが、やはりシュネーでは?」
「シュネーに違いない! 獣の耳は我々の目をごまかすために、邪悪な魔導士が生やしたに違いない!」
「そもそも耳は本物なの?」
一度に反論するのは困難だ。スバルはこの場から走り去りたい気分だ。
しかし、ぐっとこらえる。後戻りはできない。
「耳は本物です! 邪悪な魔導士はいったいどこの誰でしょうか。もしいるのなら、そいつの始末をしなければならないのでは!?」
スバルはあえてソーラーとは目を合わせなかった。ソーラーがありあまる殺気を放っている。目を合わせたら射すくめられる。
負けるわけにはいかない。スバルはあくまで言い放つ。
「この娘はシュネー王女ではありません!」
「……随分と強く主張するのだな。貴様は何を隠している?」
ソーラーの言葉が重くのしかかる。視線を合わせるのが辛いが、よそ見をすれば怪しまれる。スバルはソーラーへと向き直る。深く頭を下げて直視を避ける。冷や汗と震えが止まらない。
だが、恐れる事はない。
スバルは自分にそう言い聞かせながら、言葉をつむぐ。
「恐れながら、俺はありのままを報告しております」
隠し事をしているのはあんただ、という言葉を飲み込んだ。
ソーラーが不適な笑みを浮かべる。
「この儂が間違っているというのだな。そこまでの自信があるのなら、化け猫とおぬしを尋問しよう。よいな?」
ゲベート王都における尋問は、拷問と大差ない。死ぬまで自白を強要される。二度と日の光を浴びる事はないだろう。
いずれにせよシュネーは捕まるのでは。
スバルの脳裏にそんな言葉がよぎった。しかし、諦められなかった。
「化け猫のために時間を使うのはもったいないと思いますが……」
「その娘がシュネー王女で、邪悪な魔導士によって姿を変えられているのなら一大事だ」
ソーラーが引く気配はない。絶対的な権力者は自らの嘘も恐れていない。言い返すのは絶望的だ。
しかし、臆さない人物がいた。シュネーだ。
「私は何度でも言う。ナトュール国は無実の罪を着せられて滅ぼされ、王族は殺されたり改造されたりしたと」
凛とした瞳と、高貴な威厳は神聖だった。
この不幸な元王女に、幸運の女神が思わぬ微笑み方をする。
エイベルが口を開いた。
「無実の罪? ギル兄に恥をかかせたのは本当だよ! 死んで償うのが当たり前だ。改造は知らないけど」
ソーラーが見るからに青ざめるのが分かった。シュネーに猫耳を付けて売り飛ばそうとした事を、息子にも内緒にしているらしい。
エイベルは話を続ける。
「スバルの言っている事は本当だと思う。だって、お父様がシュネー王女を逃がすはずがない! そうだよね、お父様」
ソーラーは無言だった。




