14.化け猫
スバルは震えが止まらなくなった。
エイベルが追い討ちをかけるように口を開く。
「そういえば、僕の知り合いの知り合いが片目に大怪我を負って帰ってきたんだ。スバルも怪我をしているし、関係あるのかな?」
幼い王子の瞳は、疑心に満ちていた。
スバルは片目に大怪我を負った人物に心当たりがある。シュネーを捕らえようとした狼男の片目をつぶして、追い払ったのだ。狼男が人間の姿に戻った時に、怪我も残ったのだろう。
幸い名前は知られていないが、シュネーをかばった人物がいるという報告を出されただろう。
特定されるのも時間の問題だ。
エイベルが再び口を開く。
「ギル兄は何か知ってる? スバルに何か命令してる?」
「俺はゲベート王都と周辺の見回りを命令した。あとは知らん」
ギルバートの返答はそっけなかった。反乱軍がいつどこに隠れているのか分からないため、近衛兵以外の人間に見回りの命令をするのは不自然ではない。
「スバル、報告があるならしろ」
ギルバートに言われて、スバルは迷った。
シュネーをかばったと言えば反逆罪が成立する。ペンダントの修理をするために王城に連れてきたが、この会場にいる者達にはあってはならない事だ。
だが、成り行きとはいえシュネーを助けてしまった。スバルに後戻りはできない。この場をどうにかして切り抜けるしかない。
スバルは心舌打ちしたい気分だ。たまたま助けた女の子がシュネーでなかったら、言い訳は簡単だった。
野盗から逃げていた女の子を助け出したと言えば、誰も調べようとはしなかっただろう。
そこでスバルは思いついた。
「この娘は本当にシュネー王女ですか?」
会場にいる貴族はもちろん、ソーラーすら困惑の表情を浮かべた。エイベルは両目をぱちくりしている。
やるしかない!
スバルは意を決してシュネーの白いフードを取った。彼女の猫耳が露にされる。
会場がどよめきに包まれる。
銀髪の頭頂部に位置する猫耳は、誰の目にも異質だった。シュネーは指さされ、化け物だと罵られる。
涙目になる猫耳の少女から手を離し、スバルは両手を広げた。
「ご覧ください! 一国の王女に猫の耳など生えていると思いますか? この娘はシュネー王女とよく似た化け猫だと考えるのが自然ではありませんか? こんな化け猫と関わりのある人間が、ここにいる高貴な貴族様にいると思いますか?」
スバルはチラッとソーラーを見る。両手をワナワナと震わせているが、反論の余地を与えずにすんでいるようだ。ソーラーは、自分がシュネーを改造したなどと公言する事ができない。
畳みかけるなら今しかない。
「俺は断言します。この娘はシュネー王女ではないと! 誰が仕込んだか分かりませんが、ここまで迫真の演技ができる娘なら何かとお役に立つでしょう。どうぞご期待ください!」
言い終えて、スバルは全身からどっと汗が噴き出すのを感じた。まともに戦ってもソーラーには勝てない。シュネーと自分自身を守るためにはこれしかない。
やる事はやった。あとは運を天に任せるだけだ。




