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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
ゲベート王城
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11.愚弄は許さない!

 王城の壁には厳かなステンドグラスが敷き詰められている。天界の使者が舞い降りて、天へと手を伸ばす人々を救い上げる様子が描かれていた。最奥の壁には、当時の国王をモデルにした巨大な聖人像が貼り付けられている。

 天井にはいくつもの宝石を埋め込まれていたシャンデリアが吊るされている。無数のロウソクが付けられており、真夜中でも明かりが消える事はない。

 贅の限りを尽くした王城には、着飾った貴族や王族が住んでいる。ほぼ毎日パーティーを開いては、何気ない会話をして笑い合っている。豪華な食事や高級な酒がふるまわれ、ご満悦の様子だ。

 楽し気な様子とは裏腹に、薄汚い陰謀が渦巻いているのを知っている人間には異様な光景に見えていたが。

 スバルはそのうちの一人である。


「またパーティーかよ。うらやましい体力だぜ」


 パーティーの名目は様々だ。誰かが戦果をあげた祝い、貴族以上の人間の出産など、事あるごとにパーティーが開かれていた。衣装の値段はバカにならない。心の底から楽しんでいる者が何人いるかは定かではない。


 一方でシュネーは芸術品の数々を見て、両目を輝かせていた。


「ここが、ゲベート王都の城……」

「見惚れるな。目に毒だ」

 スバルの言葉が届いているのかいないのか。シュネーはホウッと小さな溜め息を吐いていた。

 スバルはあきれ顔で口を開く。

「シュネー王女、これから真面目な話をするぜ。覚悟して聞けよ」

「まじめ……? わ、私にはあんなに露出の多いドレスはダメだ。派手すぎる」

「誰もドレスの話なんかしねぇって! ペンダントの修理人の話だ。誰であっても文句は言わないように。絶対だぜ」

「直してくれるなら、恩に着る。早く案内してほしい」

 シュネーの言葉に偽りはないと受け取ったのか、スバルは頷いた。

 パーティー会場には楽しそうに踊る貴族達がいる。その中から目的の人物を探す。


「いたぜ。あいつだ」


 スバルが指さす。漆黒の軍服に身を包んだ、黒髪を一本に束ねる長身の男がいた。向こうからも気づいたのか、ダンスを中断して近づいて来る。

 年のころは二十代前半。不思議な雰囲気の男だ。色白で、どこか儚い。しかし、漆黒の瞳は果てしない闇を思わせる。


「相変わらず、ひどい怪我だな」


 淡々とした口調で話しかけてくる。

 スバルは苦笑した。

「どこの誰の命令のせいだ、ギルバート王子」

「人のせいにするとは嘆かわしいな。今回はそれほど危険な命令をした覚えはない」

 男は低い声で笑う。

 シュネーは顔色を変えた。

「ギルバート王子……メーア姉さんと婚約話が持ち上がって……そして……」

 シュネーは嗚咽を漏らした。その後を、スバルはギルバートから聞いている。ギルバートの父親であるソーラーと、弟のエイベルにより滅ぼされたのだ。婚約話の破棄が気に入らなかったのだろうか。


 ふと、足音が近づいて来る。


 金髪の男の子が走ってきていた。年のころは十代前半。金色の装飾をあしらった赤いダブレットは、当人の気品と愛らしさを際だたせている。あどけない青い瞳を輝かせて、ギルバートの裾を引っ張る。


「ギル兄、大変だ! もうすぐお父様がやってくる」


 早く行こうよ! と言わんばかりにぐいぐいと引っ張っている。ギルバートは穏やかに口の端を上げた。

「急ぐな、エイベル。王族としての振る舞いはどうした?」

「ギル兄に言われたくないな。お父様が正装で来いと言ったのに軍服を着るなんて。喧嘩を売っているとしかおもえないや」

「軍服も立派な正装だ」

 そっけなく言い放つギルバートに対して、エイベルは頬を膨らませた。しかし、二人とも目元は笑っている。


 一方で、シュネーの表情は険しい。


「あなたがエイベル王子……ナトュール国を滅ぼした……」

「そうだよ。君は誰?」

「私は……!」

 シュネーの口を、スバルが慌てて塞いだ。抵抗してくるが、問答無用で押さえつける。今ここで彼女が身分を明かしたら、捕まるだろう。場合によっては殺されるかもしれない。

 スバルは精一杯の笑顔を作った。

「俺の連れです。こういう場に慣れてなくて挨拶もロクにできないが、大目に見てやってください」

 エイベルは首を傾げた。

「スバルほど無礼な人間はいないと思うけど」

「うるさいですね、しばきますよ?」

「僕にそんな事ができるの? 僕は英雄なんだ。いつまでも子供扱いできると思ったら大間違いだ!」

 スバルは眉をひそめた。

 エイベルは話を続ける。

「ナトュール国という、ギル兄の結婚話を台無しにした悪女の国をやっつけたんだ。それも、ほとんど僕一人で頑張ったんだ」

 エイベルがふんぞるのに、ギルバートは呆れていた。

「一人でやったのか。部下を使いこなせていない証拠だ。それに、婚約のもつれを戦争の大義にするのもどうかと思うぞ」

「ギル兄の人使いが荒いんだ! あとお父様は、戦争には勝利さえあれば大義など不要と言っていた。僕もそう思うよ」

 二人の会話を聞きながら、スバルは焦っていた。


 シュネーが殺気を放っている。羽交い絞めにしても、暴れる。彼女の目には涙がたまり、いかにも噴出しそうだ。何かを言いかけてはしゃくりあげている。


 今は怒りのあまり、言葉がまとまっていないのだろう。


 しかし、ひとたび口を開けばどんな罵詈雑言が飛び出すか分からない。二人の王子をののしれば、文字通りに首が飛んでもおかしくない。彼女のためにも、それは避けたい所だ。何より、シュネーを連れだと言ったスバルの身も危ない。

 だが、感情の爆発を抑えられるはずはなかった。


「私はナトュール国の第二王女シュネー。祖国への愚弄は許さない!」


 言葉は、噛み付かんばかりの勢いで発せられた。

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