10.何者
スバルは一つだけ合点した事があった。
シュネーがペンダントを奪われなかった理由だ。
宝石をいただく銀の鎖の首飾りと言えば、高価だろう。うまくいけば目の飛び出るような値段で売れる。それにも関わらず、狼男達がペンダントを奪わなかったのは、奴隷にされた元王女の婚約者と言われたくなかったからだろう。
スバルも妙な縁ができるのを避けたい。
「落ち着け、シュネー王女。俺がそんな意味で貸してほしいと言ったと思うか? ペンダントを壊したし、婚約は無効だろ?」
「ペンダントがなかったら狼男を撃退できなかったでしょ。だいたいあなたが壊したのだから、あなたが直す義務がある。責任取って」
シュネーがずいっとスバルに詰め寄る。ペンダントを壊したのは間違いなくスバルであるし、責任を逃れる事は困難だ。
シュネーの首飾りは細かな細工が施されていて、修理は至難の業だ。並の細工師では音を上げるだろう。
だが、スバルには直せる人物に心あたりがあった。やたら滅多に会わせたくないものの、非常事態だ。
「わーった。ペンダントは知り合いに直させる。どんな人間でも文句は言うなよ。婚約の話はまた今度だ」
「……分かった」
シュネーの猫耳が心なしか折りたたまれていた。落ち込んでいるようにも見えるが、スバルにはその理由が分からなかった。
目的地は堅牢な防壁の内側にある。防壁の内側に入るには、南にある唯一の門を通らなければならない。そこでは常に番人が目を光らせている。
シュネーには猫耳が隠れる程度にフードをかぶらせる。顔まですっぽり覆うとかえって怪しまれるからだ。
スバルとシュネーが門の前に行くと、鎧に身を包んだ屈強な男が話しかけてくる。
「名乗れ」
「お仕事お疲れさん。いい加減に顔を覚えてくれないか?」
門番が厳かに命令しているのを、スバルは軽口で応じていた。
しかし、門番は紋切型に言ってくる。
「名乗れ」
スバルは溜め息を吐く。
「めんどくさい奴だ。ゲベート王国第四王位継承者ギルバート配下王族直下特殊部隊スバルとその連れだ。これでいいか?」
「通れ」
門番はそっけなく通行の許可を出した。
シュネーが顔色を変える。
「あなた何者!? ギルバート王子の部下って」
「あんまり何度も言わせないでくれ。めんどくさいから。ペンダントを直すのが大事だろ? さっさと行くぜ」
スバルが歩くと、シュネーは青ざめながらついてきた。




