9.絶句
※やや残酷な描写があります。
狼男がニヤニヤしながら距離を詰める。
「今生の別れはすんだかな?」
「ああ、あんたとの会話はもうすぐ終わりだ」
スバルが一気に狼男の懐へ飛び込む。不意をうたれたのだろう。狼男は一瞬スバルを見失う。
その一瞬のうちに、銀の鎖が狼男の眼球に打ち付けられる。
「ぐっぎゃああ!」
狼男は目から血を流し、地面を転がりまわる。
スバルは狼男の懐へ飛び込む時に、銀の輪っかを引きちぎり、一本の鎖にしていた。これにより銀の鎖が届く範囲が飛躍的に伸びた。スバルの身体能力とあいまって、回避するのは至難の業であった。
「銀の武器なら、狼男も死ぬんだよな」
スバルは、狼男の血で染まった、ちぎれた鎖を手にしながら睨む。狼男は冷たい眼光に威圧され、震える。狼の群れも怯えていて、絶対的な優位は消えていた。
狼男がわめく。
「なぜ、そこまでする!? 君はその女のなんだ!?」
「聞いただろ。ただの通りすがりだ。俺はあんたを見飽きた。狼を連れてさっさと失せろ」
狼男はうめき、もだえる。しかし、狼の群れが一匹、また一匹と減っていくと諦めたのだろう。朝ぼらけの広がる空を背に、走り去った。
スバルは安堵の息を吐く。
「とんだ災難だったぜ。ペンダント壊して悪かったな」
「こちらこそ巻き込んで……本当にごめんなさい」
ちぎれた銀の鎖と宝石を渡されて、シュネーは心の底から申し訳なさそうに頭を下げた。
しかし、スバルとしては構うつもりはなかった。シュネーは貴重な情報源以外の何物でもない。ゲベート王都の貧民街のボスについて情報を絞り出した後は、きれいさっぱり別れるつもりだった。
シュネーの驚くべき言葉を聞くまでは。
「でも、私はあなたと婚約した事を後悔しない。メーア姉さんにもいい報告ができる」
スバルは絶句した。
シュネーは話を続ける。
「ナトュール国の王家が持つペンダントは、婚約者にのみ渡す事が許される。あなたから欲しいと言われた時にはためらったけど、よく考えれば強いし顔も悪くないし……」
頬を赤らめてもじもじする猫耳の王女は愛らしい。




