プロローグ.引き継ぐもの
平原には大雨が降っていた。ゲベート王都の誇る国王軍とゲベート王都に仇なす反乱軍の戦闘がここで行われた。決着は既に着いていた。
国王軍の圧倒的勝利だった。反乱軍は主力を失い、逃亡を計っていた。
国王軍は嬉々として反乱軍へトドメをさしにいく。彼らの表情は狂気に満ちていた。倒れている味方たちには目もくれない。
そして、敵を見失うと彼らはその場で引き上げてしまった。戦場で傷つき、まだ息をしている大けが人を助けに来るものはいなかった。
戦場の跡地に一人の戦士が倒れていた。雨は彼の血を流していく。止血が間に合わない。倒れている戦士の瞳は虚ろになっていった。
スバルはその傍らに立ちすくんでいた。彼の胸は張り裂けそうだった。目の前の仲間を救えない。
どうすればいい。
意識はある。なのに、確実に死に向かっている。この仲間をどうすればいい。
戦場の前線に立つ者なら覚悟しなければならない事だった。しかし、当時のスバルは十五歳。割り切りができない。仲間の死に慣れるのは容易ではなかった。
スバルは大声を出す。
「絶対に助けは来る。死ぬな!」
しかし、戦士は力なく微笑んだ。
「こねぇよ、スバル。早く帰らないと、おまえが怒られるぜ」
「俺はここに残る。あんたを置いてけない」
スバルはきっぱりと言った。
戦士は首を横に振る。
「残って何ができる? それより、生きて俺たちの無念を晴らしてくれよ」
俺たちの無念。
そう聞いて、スバルは辺りを見渡した。何人もの仲間が倒れている。反乱軍と戦う前まで共に語りあった仲間たちだ。
戦士が口を開く。
「もう……誰も傷つかないように……」
戦士は血を吐いた。そして何も言わなくなった。
国のために戦った戦士たちは、最期は国に見捨てられて命を落とした。しかし、彼らは覚悟している。どんなに辛い想いをしても、反乱軍を討ち、大切な者たちを守る。そのために、彼らは命を捧げていた。
彼らの無念を引き継ぐ事が、スバルにできる弔いだった。
スバルはその場を離れた。彼の瞳は鋭く光っていた。
雨は降り続く。戦士たちの死を悼み、慰めるように。