返済その6「若さを若さってなんだ?振り向かないことさ!」
「えっ。映画ですか?」
有希は、店の手伝いを終え、茶の間でテレビを見ながら、紅美の夕食の支度を手伝っていた。そのときに、紅美から、明日の土曜に映画を観に行かないかと誘われたのだ。
「はい、行きますよ!」
と、有希は満面の笑顔で返答した。
「そう、良かったー」
紅美は、茶の間のテーブルに皿を置きながら言う。
「それで、観る映画のタイトルは?」
美人の従姉の紅美と、映画を観るのだ。どんな内容でも観てやるよ!と、有希は意気込んだ。
「明日公開の『血まみれで、リアルでグロテスクなゾンビ達が、街の人々に襲い掛かる』って映画よ」
この内容が一瞬でわかる映画のタイトルで、有希は、行くのをやめようか悩んだ。
ちなみに、紅美は、この映画『血まみれで、リアルでグロテスクなゾンビ達』シリーズが好きだった。
翌日の夕方。
今日は店の手伝いを休んで、街の映画館まで、二人は歩いて向かっていた。
いろいろ考えたが、結局、有希は行くことになった。まぁ、気晴らしになるだろうと思ったのだろう(気晴らしになるか、わからん内容の映画だが)
なんだかんだで、有希は映画を観るのが、久しぶりだし、ホラー映画なら苦手でないし、むしろ、絶叫シーンで紅美が驚いて、自分に抱きついてくるんじゃないだろうか…。と邪推していた。
「あっ、着いたよ」
と、紅美の声が有希の邪推を吹き飛ばした。
「あっ、はい!」
その声に、醒めた有希は映画館に目を向ける。
すると…。
「やぁ!紅美さんに、有希君じゃないか!」
大きな看板が目立つ映画館前に、何故か、あの巨漢アロハの赤井の姿があった…。
「ぎゃぁぁーす!!」
と、予期せぬ人物の登場で、有希は大きな奇声を上げた。
「あっ、赤井さんだー」
無邪気に紅美は、赤井に手を振って挨拶をする。
「いやー、僕も映画を観ようと思ってきたんですよー。ハハハ!!」
相変わらずの羊被った振る舞いで、赤井は紅美と話す。
(何故、奴がいるんだ!?)
有希は、そう思った。
理由は簡単だ。さっき、店に赤井が来た。だが、紅美が居なかったので、店主に居所を(なかば、恐喝で)聞いたら、あっさり教えてもらったからだ。
それで、彼はバイクを飛ばして、駐車禁止区域に駐輪させてから、ここへ来たのだ。
「いやー、で、なんの映画観るんですか?」
と、紅美の横をキープしながら、奴は紳士的に振る舞う。
(一緒に、観る気かよ!)
有希は、言葉に出さずにツッコむ。
「えーと、ですねー」
紅美に断る気配が、見えなかった。えー、一緒に観るのー!?と、有希は思った。
「『血まみれで、リアルでグロテスクなゾンビ達が、街の人々に襲い掛かる』って、映画ですよ」
それを聞いた瞬間、赤井の顔が青くなった。
「えっ、ホラー映画観るんですか…」
奴の勢いが止まった。小刻みに、足が震えている。
「あっ、あの、こっちの劇場版、仮面ライダー○王にしません…。面白いですよ…」
映画を代えようと、奴は勧め始めたが、時は遅く、あの映画が始まろうとしていた。
で、結局、赤井も一緒に、ゾンビ映画を観ることにした…。奴の顔が、だんだん、凍り付いていく。血の気を感じない青い顔になっていた。
(まさか、この人…)
赤井の様子で、有希は、気付いた。
上映終了後。
映画館の前で、サイレンが鳴り響いた。
救急隊員が、映画を観てる最中に、恐怖のあまり、失神してしまった赤井の巨体を運んでいく。あの巨漢が、白目を向いて泡を吹いている。
そう、奴はホラー映画が苦手だった。
なのに、観てしまったのは、紅美が居るからだ…。
有希は、そんな奴の生き様に苦笑いするしか出来なかった…。




