返済その2「立ち読みで、週刊誌の袋とじを無理して見るのは、やめなさい」
福梨有希は、若くして、借金まみれ。もう17歳にして、人生に絶望していた。
しかし、世の中、捨てる神あれば拾う神あり。彼に、拾う神が出現したのだ。
ガタン、ゴトン…。
有希は着替えなどを積めたカバン片手に、電車の席に座りながら、揺られていた。平日の昼間の電車内は、人気なく静かだ。
はぁ…と、有希はため息を吐く。
「なんで、僕が電車に乗っているのかと言うと、借金で家から出され、手当たり次第に、居候させてくれないかと、親戚たちに電話したら、一件だけ、居候させてくれるトコがあって、今から、そこに向かっているんだ」
と、有希は話相手がいないのに、一人で、まるで解説のような独り言を喋っていた。
居候させてくれるのは、有希の従姉の女性。もう十年以上は会ったことのない、顔をすら覚えていない人だ。家出したらしく、親戚の集まりなどに顔を出さないため、ほぼ忘れられた存在で、皆から、敬遠されていた。
しかも、聞いた噂じゃ、かなり名を轟かせているレディースの暴走族をやっていて、かなりメチャクチャな生活を送っている人らしい…。
そんな従姉に、頼ってしまうほど、有希の状況と精神はクライマックスだった。
「はぁー」
有希は、不安と緊張で倒れそうだった。
そして、電車は目的地に止まり、有希は改札を通過して、駅前に出た。今まで、高級マンション街に住んでいた彼には、この駅前の建物や施設に物足りなさを感じていた。
そんなことより、問題は例の親戚であった。
(グレて、レディースやってるらしいからな…。変な車、バイクで来たりして…。ていうか、それ以前に、変なクスリしてたり…、あっ、いや、それどころか、人を…)
と、有希の頭に嫌な想像が広がっていると…。
「あのぅ?もしかして、福梨君?」
可愛らしい声が、有希の名を呼んだ。
「へっ?」
有希は呼ばれた方に、首を向けた。
すると、そこには、今まで、有希が見たことのないくらいの眩しい輝きを放つ、おしとやかな美人の女性が。
誰だ?と思い、有希は聞いてみた。
「えっ、あなたは?」
「従姉の京山紅美」
彼女が、例の従姉だった。
「なっ!?」
と思わず、有希は鼻水を飛ばして驚いた。その鼻水は汚かった。
彼女が乗ってきた軽のワゴンRの助手席に、有希は鼻水を吹いてから、荷物を後部座席に置いてから乗った。どう見ても、ヤンキーのシャコタン仕様の車ではなく、普通の車だ。
彼女は、ハンドルを握り、車を発進させた。
「親の借金背負っちゃって、大変ね」
と、紅美は有希に話し掛けた。喋り方からして、クスリはやってなさそうだ。
「ええ…」
「私も、借金してて返済してる身だけど、困ったことがあったら頼ってね」
そう優しく彼女が言う。有希は、そう言われて、彼女がヤンキーなのかが、どうでも良くなった。むしろ、そんな優しい言葉を掛けられて泣いた。
「あっ、ありがとうございます…」
「どっ、どしたの?」
有希が、いきなり泣き出したので、紅美はビックリした。
(にしても、従姉とはいえ、こんな美人さんの家に暮らすことになるとは…)
と、有希は世の中、悪いことだらけではないと、鼻で笑い始めた。
「あの、住まいは、アパートですか?」
と、有希は聞いた。
「ううん。私も、実は居候してる身で、住み込みで定食屋で働かせてもらってるの。その定食屋さんが、借金しちゃっててさ…」
紅美は苦笑いで、そう話す。
「そりゃあ、大変ですね…」
どこも、大変なんだなーと有希は思った。
「あっ、着いたよ」
そう言って、彼女が車のブレーキを踏んだ。停車した先には、ちょっと古い建物の定食屋が。
荷物を車から降ろして、有希は紅美と一緒に、これから、居候させてくれる定食屋に入った。
(これから、ここで暮らすのか…)
有希は、借金を背負って絶望していたが、美人で優しい従姉の紅美と出会い、再び、心の中に希望を取り戻した。
(なんとかして、親の借金を返してみせる!)
と、希望を新たに、定食屋の戸を開けた。
「あっ!」
「んっ?」
有希が戸を開け、真っ先に目に入ったもの…。それは、トンカツ定食を食べている鬼の借金取り、赤井秀人の姿だった。
『希望』の文字が、『絶望』に変わった瞬間を、有希は感じた。




