返済その15「人は人を愛すると弱くなる。だが、それは本当の弱さではない」
前回までの話。
赤井は青木のフェアレディを破壊してしまい、修理しようと、伝説のチューナー、『鬼の桃太郎』に頼むが、彼の両腕はクライマックス状態で、フェアレディの修理なんか出来る状態ではなかった。
果たして、フェアレディを直るのか!?
ちなみに、一番クライマックス状態なのは、青木だぜ!!
「俺、惨状…」
と、両腕複雑骨折の桃が二人の前に現れた。
「なんで、桃さんの両腕は、最初からクライマックスになってるんですか!?」
ギブスに巻かれた桃の腕を見て、焦ってる赤井が叫ぶ。
「昨日、飲み屋に行ったら、近所の格闘道場『レッコウ』の館長、金太郎が酔って、俺の腕にアームロックかけてきて、ポキッ!って…」
「格闘家のくせに、なに一般人に危害加えてんだ、そいつ!!?」
赤井は顔の知らない、金太郎を恨むしか、今は出来なかった…。
とりあえず、二人は工具の散らかっている工場で、桃に事情を話した。話したところで、どうにでもならないが…。
ちなみに、有希は『生まれて初めて、車が潰れる音を聞いたんだ…』と、少女漫画のポエムで語った。
「なるほど…。いつもの俺なら、あのフェアレディを直せるのだが…」
と、桃は自分の両腕のギブスを悔しそうに見つめた。
すると、赤井は…。
「桃さんの手が動けないなら、仕方ないです…」
さすがの彼も諦めモードかと思われた…、が…。
「なら、俺が桃さんの代わりに修理します。桃さんの指示どおりに、俺が動いて、この車を直します」
と、赤井が言った。
「なに!?」
有希、桃は同時に驚いた。いきなりの赤井の発言に、二人は目を見開いた。
直すと宣言した赤井本人は上着を脱ぎ、工場に投げ捨てられているツナギを着始めた。そんな彼を有希は、止めようとした。直せるわけがないと思ったからだ。
「無理だよ、赤井さん!支持どおりに直せるわけないじゃん!」
だが…。
「やってみなきゃ、わかんねぇだろ」
と、赤井は言い去り、ツナギに着替え半壊したフェアレディに向かって行った。
その赤井の決意に有希は、なにも言えなかった。
こうして、すぐ様、両腕骨折の桃の代わりに、赤井がフェアレディの修復を始めた。
決意に打たれた桃は、赤井を指示した。赤井は、初めての修復作業を慣れていない不器用な手でやっていた。当然、スムーズに行くわけがなかった。
「バカヤロウ!そんな工具の使い方があるか!!」
と、頭に血の昇りやすい桃が赤井の手際の悪さに、蹴りを入れた。だが、赤井は素直に謝り、また、作業をやり直す。
まだ、始まって二時間しか経ってないのに、赤井の顔やツナギは、オイルで汚れ始めた。さらには、その時間内に、かなり桃から蹴られ、殴られた。
有希は、そんな赤井に…。
「赤井さん。青木さんだって、そこまでやれ、とは言いませんよ!桃さんの腕が治るまで、待ちましょうよ!」
と、言ったが…。
「黙ってろ!クソガキ!!てめぇのケツ、てめぇで拭いてるだけだ!!」
と、赤井は言い返す。
その言葉に、有希はビクッ!と体を震わせた。赤井は、また作業を無言で始めた。
(この人は…)
元はと言えば、確かに赤井が悪い。
謝罪なんかは、金を払えば済むのが今の世の中だ。だが、赤井は金だけで済ませようとはしなかった。ちゃんと反省の気持ちを込めて、こんなにも真剣に、自分が壊してしまったフェアレディの修復を殴られながらも、取り組んでいる。
例え、詫びの金を払えって、青木が許しても、赤井自身が自分を許すことが出来なかったのだ。
そんな彼の姿に、有希は…。
「赤井さんだけじゃ、不安ですから、僕も手伝います…。僕にも、フェアレディに乗る赤井さんを止めなかった責任がありますから…」
そう言って、有希も赤井と共に修復作業をやることにした。
そして、かなりの日にちを掛け、二人は毎日ボロボロになりながらも、フェアレディの修復を進めて行く。
日に日に、ひどいポンコツだったフェアレディに、かっての輝きが戻って行き…、ついに!
「出来たー!!」
赤井、有希、桃の三人は歓声を挙げた。
とうとう、あの半壊していたフェアレディを元通りに修復したのだ。
これには、三人抱き合って喜びあった。だが、その際の勢い余って、桃の腕がまた折れた。
完成してすぐに、赤井は、青木を携帯で『ゴウカ整備工場』へ呼び出した。このまま、甦ったフェアレディを彼に返そうとした。
「ははは、あいつ、驚くだろうな!」
と、赤井が無邪気に笑った。つられて、有希も笑い声を挙げた…、が…、次の瞬間、二人の笑い声が止まった。
ブォン!ブォン!
激しい排気音が、ゴウカ整備工場に近づいてきた。
「…」
赤井、有希の笑いが止まった。そして、同時に嫌な予感が頭に浮かんだ。
工場に迫ってきた車を、二人は駆け足で見に行った。
工場から出て、外を見ると、ホンダがバブル時代に作った最高級スーパースポーツカー、青いNSXの姿…。フロントガラスの先には、青木の顔が…。
「えっ、フェアレディ直したんですか?別に、気にしてなかったのに…。むしろ、車買い替えるきっかけになったし。直さなくても良かったのに…」
と、新しい車から降り、二人の前に立った青木が言った。
その言葉に、赤井、有希の額に血管が浮かび上がり、拳には強烈な握力が走る。二人のフェアレディ修復の際の苦労、苦痛、疲労、喜びなどの感情が、すべて怒りに変換された。
青木は、NSXを撫でながら…。
「良かったら、そのフェアレディを、二人にあげましょうか?」
その一言で、青木は二人の強靱な握り拳を顔面に受けた。
このとき、青木は思った。
「次からは、車買い替える時は、一声掛けよう…」
とことん、知らず知らずに不幸を食らう男だった。




