返済その14「フェアレディと過ごした日々を、この胸に焼き付けようー」
「すまなかった…」
赤井は青木に、ふわふわとした生地の中に、甘すぎない程よくクリームが隠された仙台の銘菓『萩の月』を渡した。
放心状態で、店内の椅子に座り込む青木は…。
「ああ、いいです…。僕、気にしてませんから…。ははは…」
と、半ば精神崩壊気味に笑っていた。
そんな二人のやりとりを、有希は悲しい顔で見つめていた。
なぜ、こんな状況になったのたか…。
それは、返済その13に、物語は遡る…。
首都高速ドライブを満喫した有希、青木は色彩園に戻った。すると、店の前には、あの例の赤いゼファーに乗った赤井が…。
「ええ車、乗ってるやんけ…」
そう言い、赤井は青木のフェアレディを運転させてくれと頼んだ。もちろん、人を疑うことを知らない青木は、快く承諾してしまった。
これが、後悔しても、後悔しきれない過ちの始まりだった…。
感の良い方なら、赤井がなにしたか、もう、おわかりだろう…。
赤井は、大型自動二輪の免許は持っていたが、普通自動車の免許は持っていなかった…。しかも、大型自動二輪の免許があれば、普通自動車に乗ってもいいと勘違いしていた(乗れません)
だから、彼はブレーキとアクセル間違って、フェアレディのフロントを壁に、最終回のゼータガ○ダムみたいに激突させてしまったのだった…。
あの時のフェアレディのボン!というエンジンの爆発音を、有希は忘れることは出来ない。むしろ、あの爆発音が耳鳴りのように、耳に響いた。
「時をかける少女(アニメの方)、面白かったよね…」
青木が、あまりにも落ち込んでたから、その罪悪感で赤井は最近、借りたDVDの感想を有希に話した…。
なぜ、その映画の話を話したのか…。それは、赤井の『時間、戻してぇ』という気持ちの顕れだった。だが、こぼれ落ちる砂のように、誰も時止められない。
色彩園の駐車場の壁に突き刺さったまま、放置された放置されたフェアレディの残骸を、二人は見つめていた。
「とりあえず、修理した方いいかな…」
と、赤井が言った。
だが、壁に突き刺さり、凹んだボディ、半壊したエンジンが修復の難しさを物語る。なにより、フェアレディのこの型の部品を見つけるのは至難の業である。
「無理ですよ…」
有希は、すかさずに言う。
しかし…。
「いや、案外、そうでもない…」
と、赤井は口元に笑みを浮かべた。
なにかを思い立った赤井は、レッカー車を呼び出し、半壊のフェアレディを運び、有希を連れて、とある整備工場に向かった。
その整備工場の錆びれた看板には、『板金・塗装のゴウカ整備工場』と書かれていた。
誰も居ない、ひどくボロボロの工場内に、赤井と有希は、フェアレディと共に、足を踏み入れる。中は、工具や部品が散らばっていた。
「なんです、ここ…」
ガソリン、塗装臭い空気に、慣れない有希は鼻を抑える。
「ここは、一流の腕を持つチューナー、桃太郎さんの居る板金屋だ…」
と、赤井は誇らしげに語る。
「彼は最高の整備と修理の腕を持つ…。彼は、俺の単車のエンジンの音を聞いただけで、一個のピストンが異常磨耗してたのを見抜いた…。さらには、馬鹿な走り屋が事故って、スクラップ同様になっていたケンメリのスカイラインを甦らせた男だ…」
それを聞いて、有希は驚いた。
「すげー!だったら、このフェアレディも!」
「ああ、前フリなしに、修理完了だぜ!!」
と、二人はフェアレディの復活の希望に喜んだ。
だが、一つ、予想外があった。
このあと、現れた伝説のチューナー、桃太郎が両腕複雑骨折していて、手にはギブスがされ、フェアレディなんか修理出来る状態ではなかったことだ。
この時、二人は口を揃えて、こう言った。
「時をかける少女、面白かったよね」
だが、こぼれ落ちる砂のように、誰も時を止められなかった。




