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異界からの来訪者  作者: 燈雅 禮
第1章
9/12

第9話 「宰相による講習<後>」

大変お待たせしました。

 移動のついでにトイレに行ったんだけど、そこも汲み取り式、所謂ぼっとん便所でした。

 肥料に使ってるんかな?

 はてさて、ミリアの後ろをカルガモの雛宜しく付いていった先。

 そこは、城の一階左端に当たるところのようだ。そして、目の前には、鉄製の大きな扉。


「ここが練魔場? だったっけ?」

「はい。ここが、宮廷魔術師の方が魔術の訓練や実験に使う場です」

「実験?」


 フラスコでもおいてあるのか?


「私は使えないので詳しくは判らないのですが、魔術というのは試行錯誤を繰り返すことで威力が上がったりするそうですので」

「へぇ。ま、とりあえず中で待とうか」

「…そうですね」


 頷き合って扉を開ける。想像よりもかなり軽いのはレベルが上がってるお蔭かな?

 ミリアが少し青い顔をしてたのはなぜだろう?


「…広いな」


 二階部分にまで広がる天井、奥行きは100メートルほど。

 城の中で一番広い場所なんじゃないか?

 窓など無い密室故か、そこかしこに松明が揺れている。

 さらには、その中で何人かの人影が動いている。

 その人影の辺りで炎やら水やらが蠢いている所を見るに、ミリアが云う実験でもしてるんだろう。

 ぼーっと扉の前で、人影を眺めることしばし。


「出入り口の前で、何を突っ立っているんですか?」

「あ、ハラルさん」

「急いで来てみれば、間抜けな顔で何を見ているんですか?」


 あれ、なんだろう。毒舌具合が上がってる気がする。気のせいだよね?


「あー、その。火とか水とか綺麗だなーって」

「…ふむ。成る程。魔術(マギ)を始めてみたならばそういった感想も有り得ますか」

「え、普通有り得ないんですか?」

「えぇ。良く考えてみてください。あれらは、綺麗かもしれませんが、命を奪うためのモノなんですよ?」

「…普通なら、恐怖するべきモノってことですか?」


 判りやすくするなら、つまりは、目の前で銃の試し撃ちをされているってことになるのか?

 …そら、怖いわ。


「そうですよ。ミリアの反応が普通です」

「え?」


 ミリアを見てみるとかなり青褪めていた。無表情は崩れてないとは云え、それなり以上の恐怖だったのではないか?


「あ、す、すまん?」


 疑問系になったのは、どう声を掛けていいかわからなかったからだ。


「い、いえ。…私こそ、少し過敏に反応しすぎていたようです」

「ミリアの反応の方が真っ当ですよ。魔術を知らない人に取っては、あれらは恐怖にしか映りませんからね」


 ハラルさんの目線の先には、火やら水やらが踊るように揺れていた。


「ミリア、すまなかった。入らないで待ってれば良かったな」


 ミリアに頭を下げる。


「い、いえ、気になさらないでください」

「いや、俺の方が常識に疎いんだ。何か変なことしそうだったら、ミリアが止めてくれ」


 やっぱり、元の所とは常識が違うみたいだしな。下手な事をしてしまう前に止めてくれる人が必要だ。


「しかし…」

「頼むよ、ミリア」

「…わかりました」


 目を見詰め、数拍の内、諦めたような雰囲気で了承してくれた。一体何を諦めたんだ?


「…終わりましたか?」

 だから、なんでそんな生暖かい目で見るんです?

「さて、では、ちゃっちゃと魔術(マギ)の訓練しますよ。出来れば今日中に基本を覚えていただきたいので頑張ってくださいね?」


 やだ、この人怖い。

 笑顔が黒いってこういうことを言うのか。


「はいっす」

「それでは、あの辺りでやりますか」


 言うなり、すたすたと部屋の片隅に移動していく。

 ディアといい、みんな隅の方が好きなのか?

 置いていかれるのは困る。てなわけで、急いでハラルさんの後を追う。


「おっと。ミリアは、入り口の近くで待っててくれ。その方がまだ気が楽だろう?」

「ですが……」

「いいから! んじゃ、待っててくれよ」


 後ろのミリアに有無を言わさず、待ってくれるように頼み、急いで追っていった。



 

 

 

「さて、シュウヤ殿」


 隅っこに陣取り、真剣な顔をするイケメン。

 松明の炎が彫りの起伏に富んだ顔に陰影を作る。

 くそ、イケメンなんてみんな敵だ!


「なんですか?」


 内心は悟らせないように答える。


魔術(マギ)とは、命奪うもの。これを深く理解しないままで使えば、自身をも飲み込む奈落の底へと落ちてしまうことでしょう。しかし、それを理解しさえすれば、己のみならず、大切な人々を守るための剣にも弓にも、そして盾にもなります。それを強く心に刻んでください」

「はい……!」


 真剣な面持ちで言われた言葉に、思わず真剣に返す。


「…では、シュウヤ殿。魔術(マギ)の発動の仕方も資料に書いてあったと思いますが」

「えーと。精霊語で、精霊にイメージを呪文にして伝えて、起句を持って発動に足る魔力を渡す。ですね」

「はい、その通りです。普通の[魔術士]では、精霊語を話せるわけではありません。ですから、千年以上前、それこそ、この国が出来る前に現れたという初の【精霊語(エレメンタル・ロア)翻訳(・トランスレーション)】を得た、[精霊術師(エレメンタラー)]タリア様が、魔術(マギ)の基本となる言霊。言ってしまえば、精霊語の単語帳のようなものを作って下さった。そしてそれを元に研究を重ねたのが今の魔術(マギ)となります」


 なんでそんな嬉々として説明するんですか?


「それも、書いてありましたね。…あ、でも、俺の《魔術(マジック)》にある、《下級魔術(ゼンエン・マギ)》ってどういった意味なんですか?」

「おや、書いてなかったんですか?」

「一言も無かったですね」

「私としたことが、忘れていたようですね……。[魔術士(マジック・ユーザー)]の系統職業で上位に転職していくと、《下級魔術(ゼンエン・マギ)》から《中級魔術(ミディオム・マギ)》《上級魔術(オベレン・マギ)》と、より上位の魔術(マギ)を取得出来るのです」

「その差ってなんですか?」


 威力とか上がるんだろうけど、具体的にどうなるか知りたい。


「簡単に言ってしまえば操作できる範囲、ですかね。級が上がるごとに、伝えられる言葉の意味と量も、渡す魔力も多くなります。その結果、現れる事象の規模が大きくなるんですよ」

「大きくなると言われても……?」


 事象の規模ってなんぞや?


「そうですね……。たとえばですが、下級では、バケツの水一杯くらいの量を操れます。しかし、これが上級になると、沼。人によっては湖程の量を扱えるでしょうね」

「マジですか……」


 襲い来る琵琶湖。うん、死ねる。

 いや、流石に琵琶湖ほどの大きさは無い、と思いたいけど。


「マジですよ。まぁ、それもあって、魔術(マギ)を操れる人々は、皆から恐れられるというわけです」

「な、なるほど。それで、具体的にはどうやって訓練するんですか?」

「精霊語も解す貴方にとっては意味が無いことかもしれませんが、まずは先達の残した智慧にならい、簡単な魔術を扱ってもらいましょう」

「どんな魔術なんですか?」

「《(クーゲル)》と呼ばれる、魔力を属性に変換した弾ですよ。それを打ち出すという[魔術士]が最初に覚える基本魔術です」

「へぇ。強いんですか?」


 弾をぶっぱなすとか銃みたいだな。


「そうですねぇ。弓よりも遠くまで届きますし、威力も上であることが殆どですから、強いといえるでしょうね」

「…弓使う意味ってあるんですか?」


 [弓士(アーチャー)]涙目。

 [弓士]の《技術(スキル)》もってる俺も涙目。


「ありますよ。弓の方が隠密性に分がありますし、適性に関係なく修練で修めることができます。誰でも扱えるというのが一番の利点ですね」

「質より量ですか……」


 それでも、[弓士]じゃない人は補正ないからきついと思うんだけど。


「軍としては止むを得ない事情なんですけどね。さて、余談はここまで。《弾》の呪文を教えますよ」

「はい!」

火よ(オ・フォイア)集い塊りザメ・ジ・エシュターレン我が敵を撃てシースン・マイネス・フィエンデス。これが火属性の《弾》、《火の弾(フォイア・クーゲル)》の呪文です」

「なるほど。起句って《火の弾》でいいんですよね?」


 銃に例えるならば、呪文で弾の種類を決めて、魔力を火薬にして、精霊に出来上がった弾を込めてもらい、起句でトリガーを引く。

 て、所かな。俺の勝手なイメージだけど。


「えぇ。それでかまいません。では、そこの人形に向かってやって貰いますか」


 指差した先、5m程向こうに人の形をした金属性の物が立っている。


「いいですけど、大丈夫なんですか?」


 燃えたりしないのか?」


「大丈夫ですよ。晶銀(ミスリル)を混ぜた合金で出来ていますから、魔術耐性はかなりの物があります。下級程度の魔術なら壊れませんよ」

「了解です。…じゃあ、やってみます」


 確か資料によると、初心者は手の平を人形の胸の辺りに向けて、手の前に魔力を集めるといいって書いてあったな。

 てなわけで、手の平を人形に向け、そこに魔力を集める。

 今度は滲み出すようにではなく、拳大ぐらいまでの大きさを手の平に集める。


「…火よ(オ・フォイア)集い塊りザメ・ジ・エシュターレン我が敵を撃てシースン・マイネス・フィエンデス。《火の弾(フォイア・クーゲル)》!」


 言い終わると同時に、集めた魔力が奪われる感覚。と同時に拳大の炎が現れ、野球選手が投げるような速度で人形へと向かっていく。

 ボン!

 着弾と同時に破裂音と焦げた後を残し消える。


「素晴らしい! 本来なら、詠唱の段階で時間がかなり掛かるのですが、精霊語を喋れるとこうもあっさりと発動するとは!」


 なぜか横で喜んでるんだけど?

 俺喜ぶタイミングなくなっちゃったじゃないか。


「発動出来たのは嬉しいんですが、なんでそんな喜んでるんです?」

「これが、喜ばずにいれますか! 普通の[魔術士]であれば、基本とされている《弾》を会得するだけでも一ヶ月以上掛かるというのに、精霊語を扱える貴方は知識を得るだけで発動してみせたのです! ということは、やはり論文における仮説のように、精霊語を正しく発音出来るのであれば、【普及魔術(コモン・マジック)】さえ覚えてしまえば魔術(マギ)を覚えることも可能なのではないか、ということですよ! となれば、今まで不明であった魔術(マギ)の適正として、精霊語をある程度覚えられる、もしくは発音することが出来るというものが適正なのではないかという仮説をも立証することになり……」

「ストップストップ! ハラルさん落ち着いて!」


 よくわかった! この人は喋りだすと止まらない、所謂オタク気質の人だ!


「…んん! ごほん。失礼。取り乱しました」


 眼鏡をくいっとやるけど、何故だろう。先ほどまでのイケメンオーラを感じない。

 中身がイケメンじゃないからか。


「いえ、いいんです……。他の属性も基本は同じなんですよね?」

「えぇ。そうです。それに今、お伝えした呪文は基本というだけですので、自分でアレンジしてみるといいでしょう」

「アレンジ、ですか?」

「[魔術士]に成り立てであれば普通は出来ないのですが、精霊語を解す貴方なら出来るでしょうから。要は、呪文を改変しより強い魔術にするのです。先ほどの《弾》であっても、アレンジを加えた流派独自の物は威力の桁が違いますからね」

「魔改造をしろってことですか」

「……? まかいぞう、ですか?」

「言葉の綾です。気にしないでください」

「そうですか? では、最後に、私が独自に作った《弾》の《魔術》をお見せして、今日の訓練は終わりにしましょうか」

「はい。オリジナルの《弾》ってどんなのですか?」

「まぁ、見ててください」


 にっこり笑顔で答え、右手を人形へと差し出す。


火よ(オ・フォイア)集いて(ザメ・)矢となりヴェルダ・アイン・プフェル回れ(・ドレーヘン)我が敵を(アインドリンゲン・)穿ち(グラーベン・)貫けマイネス・フィエンデス。《火の(フォイア・)旋矢ドリーエン・プファイル》」


 そして、言葉通りに矢のように細長い火が撃ち出され、人形に着弾。

 ギャリ!

 先ほどとは違い、金属を削るような音。

 見れば、着弾した後には、少し抉れたように金属が凹んでいた。


「今のが私のオリジナルです。他の流派でも、矢の形はあるようですが、私の物が一番貫通力が高いでしょうね」

「貫通…、もしかして、今のって弾自体を回転させてるんですか?」

「…その通りですが、何故?」


 一瞬、驚き、すぐさま剣呑な目で見られる。

 普通に怖い。


「あ、その。俺がいた世界で、地面を掘ったりするときに使う道具が回転するので」


 ドリルな。


「成る程。異界の知識というのも、研究のしがいがありそうですねぇ」


 目が怖いってばよ?!


「とまぁ、今のように呪文を変更するだけで威力や効果が変わります。まずは、シュウヤ殿は《弾》を自分流にアレンジするべきでしょう。それに、今まで作られてきた基本の呪文も、資料にしておきますので勉強しておいてください」

「また、勉強ですか……」

「[魔術士]とは、ある意味学者ですからね。頑張ってください」

「ういっす」

「さて、あまりミリアを待たせるのもよくありませんからね。戻りましょうか」

「了解っす」


 なぜか生暖かい目のハラルさんに促され、練魔場を後にした。

 


お気に入り登録&評価ポイントありがとうございます!


呪文に関してですが、なんちゃってドイツ語ですので、ご了承ください。


誤字脱字難読批判評価などありましたらお待ちしております。

では、また次話にて。

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