表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界からの来訪者  作者: 燈雅 禮
第1章
7/12

第7話 「昼食と腕輪」

かなり遅れました。いてくれるかどうかわかりませんが、待っていてくれてた方すみません。では、どうぞ。

 かーん、かーん、かーん。

 どこぞからの救いの鐘が練兵場に鳴り響く。


「む、もう昼か。シュウヤ殿、よく頑張った」


 かなりいい笑顔を見せるディアには悪いが、お前の笑顔はトラウマになりそうだ。


「た、助かった……」


 ふらふらと、その場に座り込む。

 終わった。ではなく、助かった。なのは、まぁ、言わなくてもわかるだろ? というか、わかってくれ。

 あの悪魔め(ディア)の攻撃が、腹に当たれば、吐きそうになり。頭に当たれば、酷い眩暈と頭痛。手足でも芯から痺れと鈍い痛みを覚える。

 そんな攻撃を何度か貰いながらも、死ななかった俺に拍手を送りたい。

 そして、【来訪者(ゲスト)】とかの贈り物ありがとう神様!


「さて、昼飯に関してだが、ミリア。頼んだ」

「承りました、ディア様」


 そういや、居たの忘れてた。すまん、ミリア。

 結局、ディアからの稽古(いじめ)の間、一言も発することもなく遠巻きに見てたようだ。近づいたら危ないしね。主にディアが。

 まぁ、何を思って見てたのかは神のみぞ知るってね。

 にしてもだ。


「終わったと思ったら、すんごく腹減った!」


 ぐきゅうう。

 宣言と同時に空気を読んだのか、腹の虫も鳴く。


「ま、あれだけ動けばな。ほら、早く行かないと肉とかなくなるぞ?」


 苦笑を滲ませるディアの言葉に食い付く。


「何!? 肉が減るのは問題だ! よし、行くぞ、ミリア!」


 肉が待っている!


「お待ちを。場所をお分かりですか?」


 駆け出そうとする俺にミリアから声が掛かる。

 目が冷たいよ?


「……ごめん。案内頼む」

「それが私の役目ですので。…少し早歩きでも構いませんか?」

「勿論だ!」


 ホントよく出来たメイドだよ。

 あー、これで常時笑顔だったらホントに非の打ち所がないんだけど。


「おっと、シュウヤ殿。午後はハラル殿の場所へ向かってくれ。場所はミリアが知ってる」

「りょーかーい」


 背中から掛かった声におざなりに答える。

 うおー、飯ー!

 と、心の中で叫びながら、すたた、と歩くミリアの後ろをいつものように追いかけた。



 

 

 

「こちらが、食堂です」


 こりゃ、また。戦場というかなんというか。

 城の一階に作られたかなり広い部屋の片隅には人が群がっている。

 群がってる先には木の机に様々な大きさの鍋が載せられており、群がってる連中にその鍋の中身を渡しているようだ。

 雰囲気的には、学食とかそういったものをイメージしてもらい、それをもう少し野蛮にするとちょうどいいかも。


「適当に並んでいれば、その内、昼食をもらえる筈ですので他の方とご一緒にお召し上がりください」

「え、一人で飯を食うってわけじゃないの?」

「はい。今日からしばらくこちらの食堂を利用するように。と、伺っております」


 脱ぼっち飯。


「そっか。わかった。んじゃ、並びますか」


 群れへ向かって歩き出す。

 が。

 あれ?


「ミリアは行かないの?」

「はい。私は他のメイドと共に頂きます。後で、お迎えに上がりますのでごゆっくり」


 言うなり、頭を下げて食堂から出て行く。

 えー。知り合いもいないとこで一人で飯食えってのかよ。

 …とりあえず並ぶか……。

 空腹には抗えず、群れの後ろの方に並ぶ。


「ん? お前、新入りか?」

「え、あ、はい」


 並んでぼうっとしてたところに横から声を掛けられた。

 見た目、俺よりも少し背の高い男。多分、180cm行くか行かないかぐらい。

 顔は、…男の顔の描写なんて、誰が得するんだよ。

 ま、平凡なアメリカ人っぽい。これでわかるよな?

 特徴といえば、金髪ってよりも、赤茶の髪ってとこくらいか。


「この時期に新入りって珍しいな。どこ出身だ?」

「え、いや、その」


 異世界から来ました。なんて言える筈もない。さて、どうするべきか。


「あー。すまん。お前も、口減らしってとこか? そうだよなー。戦闘職系の職業持ってたら口減らしに兵隊か請負人(コントラクター)になるしかないもんなぁ。いや、悪かった」


 頭を下げられても困る。

 というか、戦闘職が出ちゃうと村から出ることになっちゃうのか。恐ろしいな。


「あー。俺、ジャニアスって言うんだ。ジャンって呼んでくれよ。お前は?」


 バツが悪そうに、頭を掻きながら言う。


「シュウヤって言うんだ」


 フルネームで言ったら余計、変な勘違いしちゃいそうだ。


「へぇ、結構変わった名前してるんだな。ま、15にしちゃいい体格してるし、これから一緒に頑張ろうぜ」


 にかっと笑いながら言うジャンには悪いけど。


「俺、17歳。というか、今年で18」


 あと、名前変とか言うな。


「なんだと!? マジかよ。童顔って言われないか?」


 目を見開いて驚くとは失礼な。


「言われたことないな」

「そ、そうか。…俺と同い年なのか…」

「ま、よろしく、ジャン」

「おう。でも、悪い時期に入ってきたな、お前」

「悪い時期?」

「ん? 知らないのか? 帝国から、宣戦布告されたの」

「いや、知ってるけど」

「知ってるのに、兵に志願したのか? 普段なら、請負人とは違って、命の危険がないいい仕事なんだが、戦があるってことになれば、必ず命を懸けなきゃならないんだぞ」


 真剣な眼差しで言うけどさ。


「…そうしなきゃならないからな」


 帰るために。


「そう、か。悪かった。さ、飯が無くなる前に貰っちゃおうぜ」

「おう。肉が無くなったら困る」

「だな。肉は大事だ」


 うむ。ジャンよ。お前は同士だ。

 てなわけで、群れの間を縫うように、我先にと飯を受け取りに向かうのであった。



 

 

 

「んー! 空きっ腹に肉はキクなぁ!」


 係りのおばちゃんから奪い取るようにして取った昼食を、がやがやとうるさい長机に陣取り貪る。

 黒いパンに肉と野菜の入ったスープが今日の昼飯らしい。

 これに、牛乳が付けば、どこぞの給食だな。

 パンが少し固いが、スープに浸して食えば大丈夫。


「いやぁ、いい食いっぷりだな。村じゃ食えなかったのか?」


 同じ長机の横に陣取ったジャンから訊かれる。

 そんな心配そうな目で見るなよ。


「いや、そういうわけじゃなんだけどさ。動いた後は、やっぱ肉だろ?」


 鶏肉っぽい味の肉をフォークに刺しながら言う。けど、これって何の肉なんだ?

 鶏肉にしては、味が濃い気もする。


「その通りだ。…にしても、残念だな」


 同じく鶏肉らしきものを口に入れながら、ため息交じりに呟く。


「何が?」


 スープを口に入れながら聞き返してみた。


「今日、召喚された英勇様が、練兵場に来てたらしいんだけどさ。俺、ちょっと遅刻しちゃって見れなかったんだよなぁ。一緒にディア様も来てたみたいだし。いやぁ、失敗した。…どうした?」

「ぐふ、ごふ。…ナンデモナイ」


 なんとか、噴出さずに済んだけど咽た。


「そうか? あんまり急いで食うなよ? で、英勇様なんだけどさ。見たってやつが言うには、見た目が、黒髪黒目で、俺より少し背が低いくらいで、15歳にみえ…る……」


 見た目の特徴を言ってたジャンの顔が見る見るうちに固まって行く。


「もしかして……?」


 ちら、と俺の左手首を見る。


「すいませんっしたぁ!」


 かしゃーん。と食器が飛び散る音が響き。

 うお、リアルジャンピング土下座!


「申し訳ありませんでした! まさか、貴方様が英勇様とは露知らず、無礼な言動の数々、平にご容赦を!」


 長椅子の上で平伏したまま、顔を上げずに謝罪してくる。けどさ。

 引くわー。マジ引くわー。

 いきなりこんな公衆の面前で土下座される見た目15歳。

 ほら、みんなめっちゃ見てるよ?

 あ、何人か俺の正体に気づいたっぽい。


「いやいやいや、顔上げてくれ。気まずいって」

「しかし!」

「気にしてないから! さっきの感じのままでお願い」

「はい!」


 土下座解除。そのまま俺の横に立ち上がる。


「えーと、ちょっと聞きたいんだけど」

「はっ。なんでしょう」


 びしっと、不動の構え。というか、ただの気を付けの姿勢で答える。


「いや、普通の感じでいいって。俺もその方が楽だし」


 周りの俺を見る目もあることだし。

 色んなとこから探るような目をされる身にもなってごらんなさいな。


「わかりました」

「わかってない」

「…わかった。で、何を聞きたいんだ?」


 まだ、幾分緊張した顔してるけど、まぁ、いいか。


「俺の腕輪見て気付いたみたいだけど、なんで?」

「そ、それはです…だな。腕輪の色で身分とか判るんだよ」

「へぇ」


 そんな効果まで!


「まず、中央の線が国を表してる。うちだと白だな」

「なるほど」


 確かに俺のもジャンのにも白いセンターラインが通ってる。


「んで、周りの色が、人族での身分だな。真ん中と同じ色が王族。青が貴族。黄色が平民。黒が奴隷。赤が請負人だ」


 ちらっと、見るとジャンの腕輪の周りは黄色だった。平民ってことか。

 奴隷もいるのか、やっぱり。あ、でもさ。


「請負人も身分なのか?」

「ちょっと特殊でな。請負人は色んな国や地域に行くことになるし、下手をすると貴族よりも権力や財力なんか持ってることがあるからな」

「なるほどねぇ」


 人族は、未だに階級制度が根強いってことなのか。


「ま、うちの国には、貴族なんていないようなもんだけどな」

「そうなのか?」


 ディアとかハラルさんって貴族じゃないのか?


「うちの国の苗字付きは、一応青だけど、噂で聞くような他の貴族とは違って、俺たちをいじめたりしないしな」

「へぇ」

「領内の税とかもそんなないし」

「それでも口減らしとかはあるんだろ?」


 ジャンもその口らしいし。


「まぁ、それに関しては、仕方ないさ。子供を育てるにしても金が掛かるし、かといって子供がいないと畑の維持も大変だしな。戦闘職持ちの三男以降は、兵隊か請負人に行くし、生産職なら、弟子入りってのが基本だからな」

「みんな大変なんだなぁ」

「そうでもないぞ? しっかり努力すれば農夫とかよりも贅沢だって出来るようになるしな」

「それもそうか。って、俺の透明なんだけど?」


 左手を軽く上げる。腕輪の真ん中は白だけど、その周りは透明だ。


「うちの国だけ、特例でな。召喚した英勇の腕輪の身分色を透明にしてるんだ」

「それで、気付いたのか」

「あまり人の腕輪を見つめるってのはよくないからな。気付かなかったんだ。すまない」

「いいってば」


 そんな顔で頭を下げられたら何も言えないっての。


「ほら、頭上げてくれ。みんな見てるしさ」


 言いながら周りを見渡す。

 がやついていた食堂もいつの間にやら静かになり、殆どの面子がこちらを、というか、俺を凝視してる。

 て、端っこの方に、ニヤニヤしてるディアがいやがる。

 あの女は……!

 ちったぁ、助けろ!


「あー、その。みんなにも聞いて欲しいんだけど」


 前置きすると、さらに周りの意識が俺に向かってくるのを感じる。なんか緊張するな。


「英勇って言うけど、俺は英勇になる前の状態でこっちに来ちゃったんだ。それに、かなり未来から着たみたいで今の時代の常識とか全然判らないんだ。だから、そんなに畏まったりせずに、普通の新兵として扱って欲しい」


 静かな食堂に俺の声だけが響く。

 そういう設定で話行ってるみたいだし。そういう認識の方が俺も気が楽だ。

 え、反応無し?

 数呼吸ほどの間の後。


「わかった、これからよろしく頼むぜ。シュウヤ!」


 ジャンが、ばしっと肩を叩きながら、そう言ってくれた。

 それを皮切りに。


「そういうからには、ビシビシしごいてやるからな」

「上の連中に気付かれずにサボる方法も教えてやるよ!」

「そんなん覚えさせてどうすんだよ! 槍のことなら俺に任せな!」

「斧なら俺だ!」

「夜の事なら任せてね?」


 …最後のは、誰が言ったんだ?

 美人さんならぜひお願いしたい。

 などなど、周りから声を掛けられる。

 どうやら、それなり好意的に受け入れられたようだ。

 良かった。

 これで、みんなから嫌われたら、この先、色々と大変なことになりそうだ。


「うし! ほらほら、さっさと食わないと、上の連中を怒らせることになっちまうぜ!?」


 座りながら言ったジャンの一言で、今が昼休みであることを思い出したかのように、それぞれが残ったパンやスープなどを平らげてく。


「次は、ハラルさんかぁ……。きつくなきゃいいなぁ」


 同じく残りの野菜を食べながら思わず呟く。


「え、今度はハラル様の所行くのか?」


 耳聡く聞こえたらしい。


「そうなんだよ」

「ディア様に稽古付けて貰ってたって聞いたから、てっきり近距離系だと思ってたんだけどな」

「あー。遠距離系も使えるんだ」

「マジか!? すげぇな、流石、英勇様だな。…特殊職かなんかか?」


 感心したように頷きながらパンを食べる。

 …戦闘職の武術全部使える特殊職なんだって言ったらどうなるんだろ。


「まぁ、ハラル様なら大丈夫だろ。あの人の悪い噂なんて聞かないし」

「そうなのか」

「あぁ。ジークガルム様の昔の仲間ってのもあるけど、あの人がいないとこの国大変なことになるだろうしさ」

「まぁ、ジーク様じゃ、細かい国の運営とか上手くいかないだろうしなぁ」


 性格おおざっぱそうだし。


「だろう? っと、今のは聞かなかった事にしとくぜ」

「あ、すまん」


 不敬罪で打ち首とか困る。


「ま、本人が聞いても、その通りだ。とか言いそうだけどな」

「確かに」

「あ、でもハラル様って時間に厳しいらしいぜ?」

「…なら、急ぐか」


 見た目からして、あの人はSだろうし。お仕置きの名目を与えたくないな。

 と、云うわけで、ミリアが来る前に食べ終わるべくさらに箸を、ではなく、スプーンとフォークを進めた。

 


評価ポイントが100を超えました! ありがとうございます!


この話は難産な上に短いという……。


今年が終わる前に後2話書ければいいんですが。

誤字脱字難読感想など、お待ちしております。

では、また次話にて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ