第5話 「副団長による講習<前>」
タイトルを変更しました。
「ん〜〜〜、あ〜」
心地いい目覚めを誇るが如く、大きく伸びをする。
寝床として新しく宛がわれた部屋をぐるりと一望する。
それなりに品のいい調度品が置いてあるが、昨日の客間よりはまだ、落ち着く。
結局、昨日は夕食の後、さっさと寝ちゃったんだよなぁ。
今何時だろ。
まだ寝ぼけてる頭でそんなことを考えながら、普段着に着替える。
昨日、貰った服だけどね。
「シュウヤ様、おはようございます」
服を着替え終えると、狙ってたかのようにミリアがノックの後、ドア越しに声を掛けてくる。
「おはよう。入ってもいいよ」
「失礼します」
キャスター付きの棚みたいなのに料理を乗せた完璧メイドが入ってくる。
「朝食をご用意していますが、いかがなさいますか?」
「もらうよ」
「失礼します」
言うなりてきぱきとテーブルの上に料理を並べていく。
お茶のポットを取り出したところで。
「お待たせいたしました。どうぞ」
「ありがとう。いただきます。……ところで今って何時?」
「7時を過ぎたところ、ですね。こちらに来る前に大時計を見てきましたので」
最初は気付かなかったんだが、城のロビーの天井付近は、大時計と呼ばれる物がある。
銀板に木の枠があるただの丸い鏡にしか見えないそれには、短針と長針があり、まさに時計と云った形。
問題は、文字盤がないってところだけど、なんとなくわかるのがアナログのいいところだな。
「そっかぁ。約束の時間って9時って言ってたよね」
夕食の時に聞いたんだけど、あんま乗り気じゃないんだよねー。
「はい。そう聞いていますが」
「それまで暇だな……。鞄の中身、整理でもしておくか」
昨日は、結局すぐ寝ちゃったしね。
「鞄ですか?」
「うん。こっちに来るときに一緒に持ってきたのがあるんだ」
言いながら朝食を片づける。
……この黄身が黄緑の目玉焼きって、なんの卵なんだろうか……。
………。
「ごちそうさま。美味かったよ」
「そう言っていただければ調理場のみんなも喜んでくれると思います」
またしてもてきぱき片づけを始める。
「そんな、大げさな。さてと……」
そんなミリアを横目で見ながら、ベッド脇に置かれた鞄を手に取る。
「……ま、確認てことで」
一昨日の夜に用意したものだから、何を入れたか思い出せないなんてことはない。
ミリアの片づけてくれたテーブルの上に鞄の中身を空けていく。
「こ、これは、本。ですか?」
テーブルの上に置かれていくものを見て驚愕するミリア。
驚愕って云っても、元が無表情だから、目を大きく見開いているだけだけど、十分以上に驚いてると思う。
「ん? そうだけど?」
本っていうか、辞書と教科書だけどな。
「こんなに大量に本を持っているということは、やはりシュウヤ様は貴族なのでは……?」
動揺してるなミリア。目が泳いでるぞ。
「いんや、違うって。俺のいたとこだと、紙なんて大量消耗品の一つだぞ?」
「た、大量消耗品?!」
そこまで驚くことか?
いい例がティッシュだし。
「なんで、そこまで驚くのさ?」
「い、いえ。本一冊だけでも、平民の平均的な一月の消費金額を上回りますし、こんな薄い紙など見たこともありません」
「本一冊で月収以上かよ! 高いな」
「はい。ですので、貴族なのではないかと」
「なるほど。…ん? こんな薄い紙って言ったよな?」
「はい。ここまで、薄い紙となると、王侯貴族の書状に使われるのが精々ではないかと」
「そこまでか。じゃあ、普段使ってるのってやっぱり羊皮紙?」
ファンタジーの定番だよな。
「羊以外の獣の皮も使いますので獣皮紙と呼んでいます」
「獣皮紙ねぇ。この本見たときって兵士の人驚いたかな?」
「かなり驚いたことでしょうね。そういえば、この本って一体何が書いてあるんですか?」
日本語が読めないからしょうがないか。
「これは俺のいたとこの学校で使ってた教科書だよ」
「きょうかしょ、ですか?」
棒読みとは言わないけど、発音を探るように言う。
「あれ、わかんないか。物を教えるための道具として使う本だよ。こっちではそういうのないの?」
「はい、聞いた事ありませんね」
「学園があるって云ってたけど、教科書は使わないのか」
「教師による口頭と板書で教えるとは聞きましたが」
「板書ってことは黒板みたいのがあるのかな」
一人納得してみる。
「私も聞いた事があるだけですので、なんとも。どういったことを勉強されてたんですか?」
「んー? 色々だよ。国語、数学、英語、歴史、地理、化学、生物などなどだな」
「えいごとかがくってなんですか?」
「英語は、俺のいた国じゃない国の言葉で、その言葉が世界公用語みたいなもんだったんだ」
「そのえいごを話す国は、かなり強大な国だったんですね」
「成り立ちは植民地だけどね。俺のいたときには世界の警察なんて嘯いてたな」
警察が暴力振るっちゃだめだと思うんですけどね?
「植民地だったのにすごいですね。けいさつとは?」
「あーと、衛兵とかみたいなものかな。悪さしたやつらを取り締まるのが警察」
警察って組織ないのか。
「自衛団みたいなものでしょうか?」
「職業として成り立ってるけど、近いかな」
「では、かがくってなんですか?」
「んー、分かりやすいところだと、何故火は燃えるか、とかかなぁ」
化け学としてならこれだろう。
「燃えるから燃えるのではないですか?」
無表情ながらも、何言ってるんだ? みたいな視線を投げてくるメイド。
目は口程に物を言うし、顔程にわかりやすい。ミリア限定。
「そこで止まっちゃったら学門にならないだろ?」
「そうですが、ではなぜ燃えるんですか?」
「んーと、空気中の酸素と燃えるものがある程度の温度になると、燃える。だったかな?」
うろ覚えである。
「さんそ、ですか?」
「うん。空気の中にある物を燃やすために一番大事なものだな。水の中だと、燃えないのは酸素がないからだし」
無理やり燃やそうとすれば燃えるけどね。水中花火とかあるし。
「そういった仕組みなんですね」
「俺のいたところではね」
どうやら、ミリアも納得してくれたようだ。
「こっちでも同じだと思いますけど。この袋には何が入ってるんですか?」
呼吸できるからこっちでも酸素はあるはずだよな。筆入れを指さす。
「あー、こっちは筆入れ」
「筆ですか?」
「おう。ちょっと見せるかな」
中からボールペンを出し、適当なノートを広げる。
「細いですね。あと、これって何からできてるんですか? ガラスですか?」
「プラスチックだよ。とりあえず、名前でいいか」
「ぷらすちっく?」
「あー、詳しく言うと長くなるから、木でもガラスでもないものってことで」
石油製品なのは知ってるけど、俺が詳しく覚えてない。とも言う。
「…わかりました」
ちょっと納得いってないみたいだけどスルーで。
ノートに日本語で書こうとして、閃いた。
ちょうどいいから、ちょっと実験しよう。
んーと。
『【全言語読解】は現在、判読のみの設定になっています。記述も有効にしますか?』
おおう、びっくりしたぁ。
思わずびくっとした俺にミリアから怪訝な視線が。
耳元でいきなり囁かれたらびくっとするって。
えーと、記述も有効で。
心の中で言ってみたけどそれでいいのかな?
『【全言語読解】は判読、記述ともに有効になりました』
いいみたいだな。
よし。
さらさらっと、ノートに崩れたアルファベットのような文字、共通語で俺の名前を書く。
共通語って言語の名前もわかるから便利だな、これ。
「インク壺に浸してないのにインクが!」
この驚きは予想してましたよ?
「シュウヤ様、こちらの世界の文字を一体どこで?」
こっちの驚きは予想してなかった。
「能力の一つだよ。って、ミリアって俺が違う世界から来たの知ってたの?」
知らんと思ってたからぼかしてたのに。
「シュウヤ様付けのメイドという大役を仰せつかった時に、アリサ様から教えていただきました」
「そうだったのか。隠す意味なかったなー」
「隠してたんですか?」
「異世界から来たってこと隠してたつもりなんだけど?」
「堂々と、こんな本やペンを出されるので隠す気がないのかと思っていましたが」
ジト目である。顔の表情変えずにジト目ってすごいな。流石、完璧メイド。
「あー、いや、隠そうと思ってたんだよ、これでも」
「では、もう少し上手く隠すようにしてください」
「はい、そうします」
程よい敗北感に包まれると同時に、鐘が鳴り響く。
王都では、8時、12時、18時に鐘が鳴るんだと。
場所によると、また違うらしいけど、わからん。
「あ、もう8時ですね。さぁ、遅れないように用意しましょう」
「へーい」
いそいそとテーブルに散乱する教科書どもを鞄に仕舞い込んで、約束の場所に行く用意をする。
気が進まないけど約束だしなぁ、仕方ない。
……はぁ。朝から憂鬱になるな。
で、約束の場所…練兵所に付いたわけだけど。
「なんで、こんなに人がいるんだ?」
城の裏門から出てすぐが練兵場なんだけど、広さは俺の通ってた高校のグラウンドよりも少し広いくらい。
サッカーコートなら3面くらいは余裕かな? わからんけど。
その練兵場のほぼ真ん中には黒山の人だかり。じゃなくて、黒髪の人いないから、なんていえばいいんだろう。
500人近くはいるんじゃないか?
「もしかすると、シュウヤ様見たさに来てるのでは?」
「いやー、それはないだろう?」
後ろに控えているミリアが言うがそれはあり得ないわ。
だって、俺ってそんなイケメンってわけでもないし。
あ、いや、珍しい物見たさか?
英勇ってここ100年くらいは呼ばなかったらしいから。
「お、シュウヤ殿。おはよう」
「おはよう。ディア。結構早かったな」
「おはようございます。ディア様」
後ろからディアが声を掛けてくる。
服装は、薄青の鎧でもなく執事っぽい服でもなく、簡素な服だった。
「シュウヤ殿も早いと思うぞ。まだ、9時になるまで10分ほどあるぞ?」
「いやぁ、待たせたらきっとディア怒るかなとおもって」
そう、約束の相手は何を隠そうディアだ。
いや、隠してなかったけどね?
「怒ったりなどしないさ。それにしても、連中は何をしてるんだ?」
ディアの目線の先には黒山ならぬ色彩豊かな人の塊。
「さぁ? 今日なんか特別な訓練とかあるの?」
「いや、ないはずだが」
と話しながら、人の山に向かう。
「おい、お前たち! これは何事だ!?」
ディアと同じような簡素な服に身を包んだ連中にディアが声を掛ける。
「あ、ディア様! と、いうことはこちらの方が、英勇様ですか?!」
その内の一人の男が、答えた途端に、周りから。
「おぉ、黒髪とは珍しい!」
だの。
「いささか若すぎるのではないか?」
だの。
「いやいや、見た目に騙されてはなりませんぞ」
だの。
「あ、結構可愛い!」
だの。
……今、言ったの誰だ。というか女性までいるのかよ。
「えぇい、静まれ!」
ディアの一喝で静まる面々。
「何故、こんなにも集まってるんだ?」
副団長をやってるだけあって、威圧感たっぷりですねディアさん。
「は! 早朝、姫様より、英勇様とディア様が稽古をなされると聞き、ぜひ見学をと思いまして!」
最初に答えた男の人が、背筋を伸ばし答える。
あのお転婆姫め!
「私たちのことを、構う暇などあるなら、さっさと訓練を始めないか!」
うわ。マジ怖い。
「は! みんな解散だ! 逃げろ!」
受け答えてた人が号令を掛けると蜘蛛の子を散らすように逃げていく野次馬ズ。
逃げろってひどくね?
「私は、魔獣か何かなのだろうか……」
ほら、ディア落ち込んでるし。
冗談通じないとは思ってたけど、本当に通じないんだな、この人。みんながからかうのもしょうがない。
「え、違うのか?」
「断じて違う!」
からかうのもしょうがない。
「冗談だってば」
「どうせ、私は冗談を解さない女なんだ……」
どこか遠いとこ見てらっしゃいますね!?
何か虎で馬なモノ踏んでしまったんだろうか。
「すまん。悪気は少しだけあった」
「あったのか!?」
「6割くらい」
「半分以上!?」
「残りは、からかうとディアが可愛いから」
「なっ…!」
顔を真っ赤にして絶句する。
「はっはっはっ。そうそう。きりっとしてるのもいいけど、その方が可愛いって」
ちょっと作った笑いで言う。
「……っ! もう知らん!」
赤いままそっぽを向くディア。
「悪かったって」
「まったく。冗談が過ぎるぞ」
まだ、ちょっと赤いままだけど、こっちに向きなおす。
「ちょっと調子に乗っちまった。すまん。……さて、ちゃっちゃと稽古しちゃおうぜ」
幾許か真面目な顔で言う俺。
「はぁ、変わり身が早すぎるのではないか? ……まぁ、いい。もう少し端の方に移動する」
「あいよ」
歩き出した俺の背に。
「お母さん、あれが女誑しって言われる生き物なんですね……」
という、戴けない呟きが聞こえた気がするが気にしない。俺には何も聞こえなかった。
聴こえなかったってことで、よろしく。
評価ポイント&お気に入り登録&感想ありがとうございます!
短いですが、区切りがいいのでここで。
本来なら、前後編じゃなかったはずなのに、どうしてこうなった。
今回の話の半分はミリアでできています。
次こそ戦闘描写できたらいいなぁ。
誤字脱字難読感想などお待ちしております。
では、また次話にて。