縁結
春が訪れた。もう、一年が過ぎたのだ。十六年という短い人生の中で、最も濃かった一年。
咲乃と再会した。優希と出逢った。姐さんにも出逢えた。恭子と仲直りも出来た。
色々、変わる事が出来た。
「お疲れ、海斗」
「おお、お疲れ優希」
姐さんと恭子が卒業するにあたり、俺は生徒会長となった。優希も役員だ。
生徒会室の一角には永久名誉副会長、朝倉和泉というものが掲げられている。実に姐さんらしい去り方である。
きっとこれからもその肩書きを武器にちょくちょく顔を出すに違いない。
「僕も頑張ったです!」
「 」
「そうだな。お疲れ庄司、智晴」
生徒会は新たなメンバーも何人か加わった。新一年生ばかりという所は、姐さんの威圧の名残があるからかと考えたりもする。
「失礼します、古賀会長。もうお昼ですがいいのですか?」
「ん?」
「病院です。妹さんが待っておられるのでは」
「沙耶なら元気にしてるよ。そのうち編入すると思うから、仲良くしてね」
「会長のご命令とあらば」
「いや相馬……俺としては、普通に友達としてがいいんだけど」
「はい。友達を装いながら接してみせます」
「はい! 僕も仲良くしてみせます!」
「うん……皆よろしくね」
数ヶ月前、妹の意識が戻った。
始めこそ沙耶も戸惑いもしたものの、優希に姐さん、恭子のお陰で日常生活への復帰まで順調に歩んでいる。
――ただ、沙耶は咲乃を見る事は無かった。
沙耶が目覚める数日前、咲乃は息を引き取った。
皆が哀しみに暮れる中、沙耶は戻ってきてくれたのだ。
もしかしたら、咲乃が縁を運んできてくれたのかもしれない。そう思わずにはいられなかった。
「じゃあ海斗、名古屋にでも行かない?」
「名古屋×優希は良い思い出が無い」
「アンタが勝手に血の海にしただけでしょ!」
「血の海っ!」
「いや、そこまでじゃない。優希! 変な事下級生に吹き込むんじゃねぇ!」
たった一人を半殺しにしただけじゃないか。
……半殺しもマズイわな。反省反省。次に活かせばいいんだ。
「そういえば、雄一郎が再戦に燃えてるんだけど、やらない?」
「俺はもう暴力では訴えないって決めたの。そもそも雄一郎って誰だよ」
「うちにいる執事」
十ヵ月程前の死闘を思い出す。あんな奴に勝てたのはマグレだ。十戦やったって一回勝てるかの領域。それももう日が経っている。向こうは磨きをかけている事だろう。
「俺、それ死ぬと思う」
「アタシもそう思うわ」
じゃあ提案しないでくれますか……。
「恭子なら楽しんでくれるかな~って」
「嫌がらせにもほどがあるわ!」
「あ! 神坂恭子さんですね。それなら分かります!」
「庄司。口を慎みなさい。今は痴話喧嘩中なんですから」
「はい……」
痴話喧嘩とかじゃないですから。
俺の好きな人は咲乃に固執し続けるつもりもない。というかそんな事は咲乃が許さないだろう。
でも、今はまだ咲乃を想っていたい。俺自身が成長出来たと思える、その時まで。
優希もそれを感じてくれているのか、それとも元から興味がないのか分からないが、いい友達として傍に居続けてくれている。勿論、ここにはいない姐さんも恭子も。
「まあ、皆さんお疲れ様でした。本日の仕事は終わりです、解散」
「おっつ~」「おつかれです!」「お疲れ様です」「 」
それぞれがそれぞれの返事をした。
窓から見降ろす。見渡す限りの田舎だが、俺は好きだ。
一匹の蝶が、窓を横切った。
「ちょっと海斗! バッグ!」
俺は追いかける。縁を運んでくれる蝶を、今日も追いかける。




